下記の記事が出ている。理事会の承認の議決があっても,それだけでAI法が成立したわけではない。
Artificial intelligence (AI) act: Council gives final green light to the first worldwide rules on AI
Consilium: 21 May, 2024
https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/05/21/artificial-intelligence-ai-act-council-gives-final-green-light-to-the-first-worldwide-rules-on-ai/
EU AI Act clears final vote
Out-Law: 21 May, 2024
https://www.pinsentmasons.com/out-law/news/eu-ai-act-clears-final-vote
このあと,欧州議会の長(President)及び理事会の長(President)が署名することにより,EUの規則(Regulation)として正式に成立する。
成立した規則は,EU官報上で公示され,公示の20日後に発効(Entry into force)する。
発効した規則は,一部の条項を除き,原則として,発効の2年後(24か月後)に適用される。
なお,日本国の法制度とEUの法制度とはかなり異なるものなので,EU法に関しては,日本国の法制度でしか通用しない「施行」という表現は,(誤解を避けるため)原則として使用すべきではない。日本国法における「施行」と類似する国家機能をもつEU法における法概念は,「適用(application)」である。
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一般に,日本国の法制度及び法律用語は,世界全体の中ではかなり特異なものなので,日本国の法制度及び法律用語の知識だけでEU及びEU法を理解しようとすると,基本的な部分・本質的な部分で理解を誤る危険性がある。既存のEU法の教科書に書かれていることは,拡大EU後の現時点におけるEUの国家体制及び法制度の変化を正しく反映しているものとは言えないので,その点に留意しなければ間違う原因をつくることになる。
私が理解している範囲内に関する限り,現時点において,日本語で書かれたEU法の教科書の中で本質的な部分・根本的な部分に多くの誤りを含まない書籍はないと判断している。
少なくとも100本以上のEUの法令を自力で翻訳しながらEUの全体の本質的部分を理解し,個々の法律用語の適切な訳語(語彙)を自ら蓄積し続ける以外に現状を打開する方法はない。
コピペだけに頼っている者は,死ぬまで「バカの壁」(養老孟司)を乗り越えることができない。
そのことを理解できない法学者は,法学者としての資質・能力を疑われても仕方がないものと考える。
ただし,マスコミ関係者やライター,職業法学研究者ではない弁護士等は,もともとEU法の基本構造やEU法の法律用語に関して素人であり,EU法で使用される法律英語が「米国及び英国で使用されてきた法律英語とは根本的に異なる意味を示すための語彙及び文法の集合体であること」を全く知らず,それゆえ,EU法に関しては基本的に無知なので,EU法において使用される法律用語の語彙を間違って理解したままで報道記事等を作成しても強く批判しないようにしている。
私自身は,私が作成する参考訳において,原則として直訳主義を貫いている。日本国に特有の法律用語を使用すると,EU法の分野においても同じだと誤解されてしまう危険性があるからだ。
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これまで3月13日に欧州議会で承認された正文案に基づき素訳(全訳)を作成してきた。
理事会で承認された正文案との異同はまだ点検していないのだが,直観的には異動があるように思う。
全体として最初の提案時と比較して2倍以上の分量の法令(前文・本文・別紙(ANNEX))となっているので,完全に点検し,参考訳を完成するのは夏休み頃になると見込まれる。
なにしろ,自分ひとりだけで作業を進めているので時間がかかる。
しかし,自分ひとりで作業しているので,訳文の一貫性に関しては他の訳を凌駕していると自負している。
複数の人間の共同作業によると,(関与者全員がEU法を正しく熟知した人材である可能性がほぼ絶無なので)一貫性のある訳文を作成することが不可能となる。
なお,重要な整合化立法のほぼ全部について同時進行的に分析と訳出を進めている。疾病や故障がなければ,2024年12月までにはその参考訳を公表できるだろうと考えている。
法と情報研究会のメンバーに対しては,2023年12月の時点における正文案に基づくサイバー回復力法案の全文訳を提供している。
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