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2023年4月26日 (水曜日)

「戦闘継続は経済後退の要因となる」との主張は効果的ではないことがある

例えば,現代文明それ自体を否定し,破壊により封建時代レベルまで戻した方がよいと考える勢力にとっては,まさにそれが狙いなので,停戦のための説得材料にはならない。

宗教的対立や根本的な政治イデオロギー上の対立が正当性根拠として双方から主張されている紛争にあっては,特にそうだと言える。

ただし,そのような勢力を敵視する側にとっては,そのような勢力に対するジェノサイドを正当化するためのかなり重要なポイントとなる。なぜならば,現代文明を是認する経済基盤を否定すると何万人~何億人もの人々が餓死せざるを得ないことになってしまうからだ。

正当防衛が完全に成立する場面では,ジェノサイド禁止は全く意味がなくなる。

どのような状況下にあっても特定の観念(だけ)を金科玉条とし,一般に観念(特に空理空論)に過ぎないものと現実の事実とを区別しないような政治理論や法理論は,百害あって一利なし。

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かつて,あまり先を読むことのできず,世界の構造を理解することもできず,人間の本質も知らないような頭の悪い評論家や学者等が,SNSによって「真の民主主義」が実現可能となったと喜んだ。現実には,中近東諸国の現代史等に見られるように,内戦による一般市民の大量死を招くことになった。武器をもたない一般市民は,単に殺されるだけの存在となる。

同様に,SNSは,ネットから自由自在に知識を獲得できるツールとなるとも主張された。「オープンサイエンス」の主張は,その一部を構成することがある。現実には,正しい情報源に関しては著作権侵害行為の横行により学術研究の意欲の大幅減退を招いている。パクることが当然だという不当な人間が増え,先人の努力に対する敬意というものをもたない馬鹿者ばかりになり,ネット内に横行するようになると,まともな研究者としては,ネットに接続されていないところで学術研究をしようとすることになることは当然のことだ。
同様に,最新技術をパクり,マネし,先進国を破壊するために二次利用するのが当然だと考える国が増えると,そもそも「オープンサイエンス」が成立する基盤が消滅したことになる。
そして,SNSは,詐欺犯罪の温床となっており,また,偽情報と陰謀論の巣窟となっている。
かねてよりSNSには批判的だったが,「やはりそうなったか・・・」と感ずることが多い。
しかし,残念なことに,大概の人々はそのようには考えなかったし,今も考えていない。人間の洞察力には自ずと限界があるので,やむを得ないことではあるが・・・

さて,現時点における喫緊の検討課題は,やはり,ChatGPTだと思う。

公平な一般教養があまねく周知されており,かつ,専門的な研究者が安全に調査研究を遂行できるような歴史・文化的伝統・社会環境・経済力等が存在しない国でChatGPTの利用だけが普及してしまうと,サイバー戦の一部としてChatGPTの学習プロセスに対する洗脳攻撃が実行されるようになる。そして,ChatGPTは,次第に,偽情報やデマゴークなどを「真理の言葉」として非常に効率的かつ実効的に人々に伝達するための手段に転化してしまうことが十分にあり得る。なぜならば,上記のとおり,まともな研究者がネット上で正しい論文等を公表しなくなり,ダメな論文や偽論文ばかり横行するようになると,ChatGPTは,主にそのようなダメな論文や偽論文ばかり学習することになるからだ。学習の対象をネット上で収集するタイプの自律学習型AIシステムは,必ずこのような問題を含在させており,解決の方法がない。

まるで現実を知らず無教養なAIエンジニアが描く理想の世界など,すぐにふっとんでしまう。否,既にふっとんでいる。

ChatGPTが登場したことにより,悪用され,非常に近い未来に世界各地において内戦状態のような大混乱が発生し,収拾がつかないような状況となる可能性が非常に大きい。

あくまでも一般論として,自律学習型AIシステムが成功するかどうかは,システムのアルゴリズムの問題というよりも,学習対象となるデータそれ自体の適法性・正確性・健全性・有効性(+有効性が保証される有効期間)・信頼性・実用性等を自動的に検証できる前処理をどのように確保するかにかかっている。
しかし,現実の世界では,どのような分野においても,本当は「わからないこと」ばかりであり,データや情報の信頼性や有効期間を適正に評価するための統一的な方法論は存在しない。
全ては,当該分野の研究者の個々の主観的評価に依存している。つまり,もともと客観性はない。

このことは,人工的に構築された公理と定義を基礎として構築されている数学体系しか知らないエンジニアにとっては,たとえ数学に関しては世界最高レベルの頭脳の持主だったとしても,全く理解できないことかもしれない。

 

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