グローバル化した社会における戦時賠償の変化
古典的な戦争の場合,敗戦国の領土内に物理的に存在する資産(+将来資産)によって戦時賠償が支払われた。領土外の第三国内にある資産は,たかが知れていたかもしれないが,当該敗戦国が植民地をもっていた場合,当該敗戦国の植民地を戦勝国間で分配することにより(代物弁済的に)戦時賠償にあてるということがしばしば行われた。その意味で,(特に第二次世界大戦以前においては)戦争が植民地の再分配のための国家間抗争であったとみることは可能と思われる。
現在,植民地主義それ自体に対して否定的な見解が優勢となっているので,植民地の再分配が検討対象となることは基本的にない。
しかし,類似の問題は存在する。
それは,ロシアがウクライナに対する侵略を開始した日まで続いた平和な時代の間にグローバル経済が急激に発展し,露の資産家階級も海外資産を大量にもち,また,海外投資等も盛んに行われるようになった。中国のような共産党独裁主義の国家においても,富裕層の在外投資が極めて盛んであり,また,国家資本主義とでも言うべき国家戦略それ自体が在外資産の増加を自動的に発生させるので,露と同じになる。
資本を通じた企業支配もある。この資本を通じた企業支配は,場合によってはかつての植民地支配と似た様相をもつことがある。
いずれにしても,戦時賠償は,戦争の勝敗が決した時点以降に(主として敗戦国の領土内資産を前提として)実行されるのではなく,戦争開始の時点で既に相手方国の情報システムによって把握されている。
そして,情報システムの管理によって事前に資産移動禁止処理を実行できることから,特定の法令に基づく凍結命令は,観念的なものとしてではなく,現実の資産の凍結として実効性をもつ。例えば,現在ではルーブルの価値はないが,露の特定の公務員の個人資産が米国内においてドル建ての債権として存在している場合,その債権を凍結し,必要に応じて換価処分してしまえば,事前にどんどん戦時賠償をとれることになる。
要するに,極度にグローバル化した経済の下にある現在の世界において,戦時賠償が「最初から既に支払わされている状態」を想定する必要がある。
「ネットワーク社会」または「情報社会」は,基本的に,そのような顕著な特性をもち,そのような特性を実現するための方法がどんどん「単一化」されるという顕著な特性をもつ。
今後の問題は,そのようにして事前に凍結・換価可能な状態となってきる敵国資産(特に電子情報化された資産)を(関係国の)「単なる分捕り」ではなく,被侵略国の戦後復興資金として使用することが国際的に適法行為となるような標準的な枠組みを構築することだと思う。
侵略国は,その在外資産を即座に凍結・換価され,被侵略国のために使用されることになるということは,当該侵略国の戦後復興資金が最初から消滅しているという事態が発生することも意味する。
グローバル化した社会における国際的な紛争解決方法を「古代脳」で決断してしまうと,未曾有の規模の国家的損失だけが残ることとなり得る。
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