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2021年11月 9日 (火曜日)

EUの「Regulation」は「規則」か「規制」か?

参考訳を作成する際,先行論文や先行資料等には一応目を通し,必要があれば,著作権法の定めるところに従い,参照・引用するようにしている。無視すべき資料等に関しては,一切触れない。

無視すべき資料の例としては,その資料それ自体が他者の著作物の剽窃物もしくはそれに類するものである場合,または,内容的に誤りが多く,正確に理解した上で作成された資料だとは到底評価できないような低レベルのものなどが含まれる。

見解や視点の相違や些細なミス等は,当然あり得ることなので,内容のレベルの評価要素には含めていない。

EU法に関する限り,そのような意味での内容のレベルの評価における簡単な識別点が幾つかある。

例えば,「Rgulation」を「規制」と訳している資料に関しては,それだけで0点と評価している。TFEUの第114条を知らないというだけで致命的な欠陥のあるものだと評価できるからだ。「Regulation」は,EUの法形式の一種であり,「規則」と訳されなければならない。ただし,小文字の「regulation」は一般名詞として「規制」という意味をもつことがある。

一般に,EU法に関しては,TEU及びTFEUによって合意されているEUの統治構造と統治機能を正確に理解し,その特性を十分に認識した上で個々の法令を検討するのでなければ,そもそも考察のための基盤または土台が間違っている可能性がある。

また,「harmonize (harmonise)」を「調和」と訳すことは可能な範囲内にあるし,私もEU法の勉強を始めた頃にはあまり良く理解しておらず,そのように訳したことがある。しかし,EU法に関する限り,EUの構成国それぞれの国内法の内容が区々になっていると,EUの域内国境を越えたとたんに同一の事柄に対して別の内容の法令が適用されることになり,そのたびに適法性の確認をし,必要に応じて所定の手続をやり直さなければならなくなってしまうので,その結果として,EU域内における円滑な取引の遂行を妨げる法的な障壁を構築してしまうことになる。そのような場合,TFEUに基づいてEUの立法権が構成国の立法権に介入することが認められており,各構成国の法制の内容を強制的に「揃える」ため,「Regulation(規則)」または「Directive(指令)」のいずれかの法形式による立法を行うことができる。特定の構成国がこれらの立法に従わない場合,一定の制裁がある。

このようにして,各構成国の関連法制の内容を強制的に揃えることを「harmonize (harmonise)」という。私の参考訳等の中で既に何度も述べているとおり,このような場合,「調和」でも間違いとはいえないが,「整合化」と訳す方がベターだと考えている。そこまで考えた上で,やはり「調和」の方が適していると考えるかどうかは,当の本人の日本語の語彙力及びEU法に関する知識の範囲の多寡に大きく依存するため,各人の自由というしかない。私は,学生から質問を受けた場合,「調和」ではダメな理由を説明するようにしている。

以上は,EU法の比較的大きな法令を100本程度完訳してみれば,私のような凡人でも明確に認識することができるようになるものなので,そのような認識をもっていない者は,とりあえず,EUの比較的大きな法令を100本程度,可能な限り精密に完訳してみると良いと思う。必ず実力がつくと信じる。

 

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