ブラームス:ヴァイオリンソナタ第3番作品108
若い頃にはあまり聴こうともしなかったのだけれども,齢を重ねたせいかどうか,最近ではブラームスのヴァイオリンソナタ第3番を好んで聴くようになってきた。過去に存在したヴァイオリンソナタの中でも傑作中の傑作の1つではないかと思う。素晴らしい作品だ。
私が現在持っているCDは,ジネット・ヌヴー(Ginette Nevew)の演奏によるもの(ジネット・ヌブー・コレクション1938-1949という廉価版BOXセット中のCD2に収録された1949年の録音)とグリュミオーの演奏によるもの(1975年録音・UCCD-9837)の2つ。他にも素晴らしい演奏が多数存在するのだろうが,この分野のプロではないので,全て収集して聴き比べるということはしない。
どちらの演奏も名演中の名演と呼べるもので,(音響技術の専門家またはその分野のマニア的な判断基準を適用しない限り)録音状態にも特に問題があるとは言えず,あとは聴き手の好みによる選択しかないだろうと思う。
全体的な印象としては,さすがにグリュミオーの演奏のほうが「唄い方」のツボのようなものを全て完璧に押さえた演奏だと言える・・・というよりも,グリュミオーの天性の極めて優れた才能によるものなのだろうと思う。とにかく美しい。このようなタイプの才能は,(他の演奏家の優れた演奏を真似して習得することは可能かもしれないが)自分自身の「唄」として自然に湧き上がるものとしては,いかなる意味においても訓練不可能なものに属する。グリュミオーは,不世出の天才の1人だと言える。
他方のジネット・ヌヴーの演奏の凄さは,このヴァイオリンソナタの第4楽章の演奏の中に全て集約されている。「壮絶」とでも表現すべきか・・・とても情熱的な演奏であり,たぶん,どのように真似しようと思っても二度と再現不可能な演奏なのではないかと思う。ピアノを弾いているジャン・ヌブーの演奏も極めて卓越したものだと思う。
あくまでも一般論としては,ブラームスが本当にこのような演奏を期待していたかどうかはわからない。この曲が作曲された当時,世界で最高のヴァイオリニストだったと思われるヨアヒムがㇴヴ―のように演奏するだけの精神力と技量をもっていたかどうかもわからない。しかし,ブラームスの楽曲解釈においてあり得る1つの方向性を示すものであり,ブラームスの情念が爆発するような感じの音を聴きたい向きには是非ともお勧めの録音だと言える。このようなタイプの演奏を好む人にとっては,グリュミオーの演奏が若干おとなしく感じてしまうかもしれない。
私自身は,演奏スタイルというものは演奏家の個性と能力の発露であるわけだし,それを好ましいと思うかどうかは聴き手の側の個性の問題だと思っているので,客観的にどちらの演奏が良いとも悪いとも言わない。どちらの演奏も天才演奏家による二度とない演奏であることは間違いない。
ただ,これらの名演を繰り返し聴いていると,このヴァイオリンソナタがこのジャンルにおいて過去に存在した曲目の中で傑作中の傑作だという印象がどんどん確信に近い気持ちになってくることを感じるのだ。
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