多国間の合弁事業
一般に,多国間の合弁事業には様々な問題がある。言語の問題,生活習慣の問題,思想や宗教上の問題等を含め,一般的な事柄だけでも解決しなければならない問題が山ほどある。その中には,絶対に解決できない問題も含まれている。
様々な問題の中で,事前に十分に調査・検討を尽くせばリスクを避けることのできるようなタイプの検討課題もある。
例えば,法的検討課題がその代表例だと言える。
準拠法と国際的な裁判管轄権の問題はあるが,その点はさておき,例えば,相手方企業の所属国の法令により,合弁事業の経営陣には当該相手方国の政府幹部も就任し,当該相手国の国益に反する経営判断に対して拒否権をもち,日本国の国家主権を無視して,相手方国の武装官憲が乗り込むことを許容するような条件の下に置かれることがあり得る。
一般に,日本国の秩序と外国の秩序とが同じものだと勝手に錯覚している無知に起因するトラブルが少なくないように見受けられる。そのような無知な者は,経営者として必要な能力をもっていないとも言い得る。
しかし,それでもなお,例えば,そのような者が小さな自治体の有力者であるような場合には押し切られてしまうことがあり得る。そのような場合,その小さな自治体は破綻と崩壊のリスクに直面していることになるかもしれない。そのような場合には,経営の自由よりも公共の福祉のほうがはるかに勝っているため,国からの直接の適切な監察と指導が必要になる。
ただし,現実にそのようになっているのかどうかは,浅学にしてよくわからない。
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近時のEUの立法動向をみていると,上記のような点も踏まえ,保安条項の強化が顕著な特徴となっている。これは,自由主義と民主主義という基本的な価値観を守るために必須のものである。それゆえ,近時の主要な関連法令を訳出し,参考訳として,法と情報雑誌上で公表したし,今後しばらくの間,そのような作業を続ける予定だ。
ところで,GDPRの十分性の判定の要件の中には,そのような意味での基本的な価値観が尊重されている国であるか否かという要素も含まれている。日本国憲法にそのように定められていることは当然の前提とした上で,現実にそのような国家運営または企業運営となっているかどうかが問われる時代が到来するのに違いない。
以上のような諸点は,EUによるGDPRの十分性判定の見直しの際に現実的な検討課題とされる可能性があり得る。
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