大島眞一編『司法試験トップ合格者らが伝えておきたい勉強法と体験記』
出版社から下記の書籍の寄贈を受けたので,早速読んでみた。
大島眞一編
司法試験トップ合格者らが伝えておきたい勉強法と体験記
新日本法規出版 (2018/7/12)
ISBN-13: 978-4788284463
複数の執筆者による書籍であり,各人各様の体験談と所感が述べられている。
無論,賛成できる部分と賛成できない部分とがある。しかし,このような書籍は,必要な書籍だと思う。
一般論としては,法律家の仕事は,理論法律家であれ,実務法曹であれ,非常に個性的な仕事だと思う。
裁判官にあっては,どんなことがあっても屈しない独立性を維持するための精神的な頑健性と頭脳の柔軟性の両方が求められるので,自動的に個性的になる。
弁護士にあっては,類型を同じくする事件であっても当事者と事案によって実質的な内容が千差万別であることが多いので,ステレオタイプのような弁護士では仕事にならない。
検察官にあっては,事案に即して公訴事実を構成し,適切に証拠を取捨選択する能力が求められるだけではなく,刑事訴訟以外の多種多様な法務に従事することもしばしばあるので,かなり柔軟な思考能力と知識の吸収能力が求めらる。
法学者にあっては,「従来の通説を全て粉砕して過去のものとしてしまう!」くらいの強靭な意気込みがなければ,まともな論文など書けるはずがない。
そして,それぞれの法律家には各人各様の世界観というものがある。
それゆえ,まともな法律家である限り,最初から最後まで個性的であることが求められるし,意識しなくても自然とそのようになる。
その結果,この分野に関する限り,画一的な教育は,常に成立しない。
私の場合,学生の意欲,資質,能力,志望等の要素を丁寧に観察した上で,それぞれの学生の個性に即した法学教育をめざしており,画一的な授業をやってみてもほぼ無意味だと理解している。
特に,各人の勉強方法は,各人が自身で身につけるべきものであり,教育によって最適解のようなものを教えることができない。仮に最適解もどきのようなものを暗記または訓練により習得させてみたところで,同じ教育を受けた者は,(少なくとも外形上では)全員同じことができるようになるかもしれず,それでは同業他者との差別化などできるはずがないので,人生において必敗の方法論を学んでいるのと同じことになる。
世界観や倫理観等に関しては,そもそもそれが固定的なものではなく,時代や環境の変化や相違によって顕著に異なるものであるし,日本国憲法によって保障された各人の思想信条の自由に属するものであるので,強制することが許されない。知識や技能を習得するための訓練と倫理観または思想の強制とは全く別のものである。
そのような観点から,本書の感想に戻ると,執筆者各位が比較的正直に意見を述べているように思われ,しかも,「自分自身の方法論をつかむ」ことを重視していることには心強いことだと思った。
私自身は,既に引退同様になっていることはさておくとしても,自分自身の気持ちの問題としては,どこかの誰かのように権力や名誉や地位を求めるようなタイプの老醜を晒そうとは思わない。
若い世代に大いに期待したいと思う。
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