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2019年2月 2日 (土曜日)

佐々木秀智:アメリカ不法行為法における個人情報漏えいの「損害」について

佐々木秀智先生の下記の論説を読んだ。

 佐々木秀智
 アメリカ不法行為法における個人情報漏えいの「損害」について 
 法律論叢91巻2・3号91~126頁(2018年12月)

この論説は,米国における従来の法理論及び制定法の検討を踏まえた上で,2016年のSpokeo Inc. v. Robins事件判決を手掛かりに,個人情報の漏洩と関連する不法行為に基づく損害賠償請求における損害発生の要件を緻密に検討・考察した上で,日本国の関連判例との比較法的な検討を試みるものであり,とても勉強になった。

日本国の裁判所における日本国民法の解釈論は,ドイツにおける民法学通説による影響を受けている部分がかなりあるが,それでも,そのドイツにおける通説の欠点を補うための民事特別法及び関連行政法の解釈論の影響を受けている部分もあり,特にこの佐々木先生の論文でも触れられている「人格権」の侵害とその損害の評価に関しては,米国及びEUの法理論及び判例法のみならず,ドイツにおける関連理論及び判例法の理解も必要となってくる。

この分野に関しても更に勉強を深めようと思う。

(余談)

過失または無過失の場合は除き,故意かつ違法に個人データを第三者に転売して利益をあげている事業者に関しては,その売上額を該当利用者数で除した額をもって自動的に損害額の基本学とした上で,これに「利用者の信頼を裏切ったこと」に対する慰謝料または報復としての一定額の損害金を加算した額をもって損害額とみなす条項を制定すべきであると考える。

日本国の民法学通説及び判例によれば,報復的な損害賠償はなかなか認められ難いところであるが,営利企業が顧客や消費者を裏切った場合には,そのような報復を法定することが重要である。法制定には相当長い時間がかかるが,解釈論であれば即時に採用可能だろう。

EUの非常に多数の政策文書が明確に述べているとおり,消費者の信頼を確保するための明確な法制度が存在しなければ,情報財取引に関する市場が成立することはないし,その市場に参入する企業にとっての予測可能性や法的安定性も根底から損なわれることになる。つまり,そのような市場が成立しなくなる。

昨年末にEUにおいて採択された非個人データの流通に関する法令においても,特定の情報(データ)の中に個人データが混在している場合には,EUの個人データ保護に関する法令が適用されることが明記されている。

他方,過失による場合には,そのような故意による損害額を上限とした上で,適宜事情を勘案して個々具体的な損害額を算定すればよろしい。

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