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2018年10月18日 (木曜日)

東証のシステム障害

下記の記事が出ている。

 東証障害、補償10万件…未成立分負担で対立も
 Yomiuri Online: 2018年10月18日
 https://www.yomiuri.co.jp/economy/20181017-OYT1T50119.html

EUの関連法制等を見て考える限り,この種の法律上の責任の問題を解決するための分界点として設定しようとする場合,現時点では,合理的なサーキットブレーカーを設置し,運用しているか否かという点に求めるしかなさそうだと考える。

今回の場合,最大の責任を全面的に負うべきな者が米国の大量発注者であることは,誰が考えても疑いようがない。全損害賠償責任を負うべきである。発注者も合理的な数量を越える発注が自動実行されないようにするサーキットブレーカーを設け,合理的に運用すべき義務がある。

賠償されなかった残余の損害については,発生源に直近の組織から順にサーキットブレーカーが設けられており,正常に機能されたか否かを検討し,その順に責任を負わせるべきだろう。そうでなければ,全ての注文通信が集中する市場が物理的に成立することができなくなる。今回の件では,直近の組織とは,証券会社を指すことになる。

かつての東証の事件では,東証のシステムそれ自体のサーキットブレーカーが正常に機能しなかったことが全ての問題の発端となった。今回の件とは事案が異なる。

(余談)

かつての東証の事件では,証券会社が誤発注に気づいてサーキットブレーカーを機能させようとした時点までの責任は証券会社が負うべきであったのだろうと思う。しかし,サーキットブレーカーを機能させようとしたけでも,システム設計上,正常に機能しないという不具合があった以上,手作業でサーキットブレーカーを作動させるべき全責任が東証にはあった。ところが,「システムに問題があるはずがない」という傲慢な態度と発想(=正常な危機管理体制の欠如)が問題を発生させることになったと言える。

しかし,この事件の担当裁判官は,そのようには考えなかった。

当時においては,米国においてもEUにおいても,「システムは完全なはずだ」という全く根拠のない過信が存在していたと言える。また,世界の金融商品取引において,システムによる高速取引に対応するためのサーキットブレーカーという発想がどの市場においても全面的に採用されていたわけではない。これは,医療過誤事件でいえば医療水準のようなものである。それゆえ,当時の日本の裁判所における最も優秀なレベルの裁判官がものごとの本質を正しく理解できなかったとしても,そのような「理解できない」という脳内のメカニズムを全く理解できないわけではない(しかし,裁判官は,原告の主張をもっと丁寧に検討すべきであった)。

その後,欧州委員会及びEUの金融界は,東証の事件を通じて,「本質的にみて,何が問題であるのか」を明確に認識するに至った。

その結果,MiFID IIやMiFIRやOTCデリバティブ改正法令等を含め,近時の大規模法改正が成立したのである。そこでは,サーキットブレーカー及びこれに準ずる方法による制御が明確に定められている。

更に,EUの金融部門とその法制は,現在,人工知能技術の応用という時代の変化を踏まえ,更に変化しようとし続けている。

日本の法律家は,情報技術の著しい発展を精密に理解し続け,そのような理解に基づき,法理論の再検討及び新たな法理論構築の能力を示すのでなければ(実務法律家としてはそのような新たな理解と理論に基づく実務的対応能力を示すのでなければ),その存在意義を証明できない時代に入ったと言える。

しかし,現実には,ソースコードを読むこともシステム設計図を理解することも全くできない法学研究者や弁護士や裁判官が圧倒的に多い。

日本国の司法制度は,その根幹部分において,破綻を始めていると言える。

日本国の主要な大学においては,もし生き残りたいのであれば,情報法学科またはこれと均等な科目コースの設置及び拡充が必須である。

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