法学に限らず,様々な分野において,外国で出版された著作物を日本語に訳し,一部修正しただけのようなものを自著として出版する例が多々見られる。
そのようなものは,著作権法に定める翻訳権及び翻案権の侵害になり得ることが明白であり,説明を要しない。
法学の分野の中では比較法関連の著作の中にしばしばみられるとの見解もある。
私自身は,翻訳は翻訳であるので,「論文」ではなく(法と情報雑誌等の中で)「資料」として公表することにしており,その原文の出典について可能な限り明確に表示し,かつ,オープンデータのように二次利用が認められているものについてはその利用条件に従い,オープンデータではないものに関しては関係各機関または著者自身から許諾を受けた上で翻訳をしている。場合によってはひどく手間がかかることがあるけれども,後になって,翻訳権等に関するいかなる批判にも耐えられるような(バイデザイン及びバイデフォルトの)手配だけはしておくべきだとの考えに基づく。
私がこれまで様々な資料を調べた中では,超有名大学の法学博士論文の中にもそのような例がみられる。しかも,まだ若くて世間をよく知らない大学院生ではなく,非常に著名な学者の代表論文とされているようなものの中にも存在することに驚く。これ以上詳しく批判するとその者が特定されてしまうのでやめておくが,当該超有名大学は,当該教授(または元教授)が関与している関連学会を含め,いったん自主解散し,リセットしてしまわないと根源的な病根を断つことができないのではないかと思う。
明治時代以来の大学という組織のあり方それ自体が,根本的なところで問われていると考える。それと同時に,自分自身が考えたこととそうでないものとを明確に峻別し,それを明示することができないような反社会的な人々を大学から排除しなければならない時が迫ってきているとも言える。
自浄できないのであれば,後に,海外の大きな権利管理団体やローファームの餌食となる可能性がある。特に国立・公立の大学の場合,損害賠償請求の勝訴判決に基づく差押えの源資が必ず確保されるといううまみのようなものがあることにも留意しなければならない。
このことは図書館も無関係ではない。外国の他人の著作物の単なる翻訳物または翻案物に過ぎないものであるのに日本国の学者による自著として刊行されているような書籍は,違法な書籍であるので,少なくとも書架からは除却する準備を進める必要がある。
私が批判すると否とを問わず,急速かつ高度に進化しつつある情報技術は,そのようなまがいもの論文を自動的に検出し,自動的に解析し,自動的に評価した上で,まがいもの作者ブラックリストを自動生成することが可能なレベルにまで達しつつある。このブラックリストは,近未来の著作権管理団体やそれと提携しているファームにとって,損害賠償請求訴訟による収入を得るための貴重な情報源となることであろう。
仮に私が突然死んでしまい批判することがなくなったとしても,そのような技術の進化が止まることはない。
(余談)
法学論文の中で,例えば,「***に関する考察-AAAの『BBB』を中心として-」というようなものを見つけることができることがある。
そのような論文の中には非常に優れたものもある。
しかし,内容的にみて,AAA作の『BBB』の紹介だけに終始し,著者自身の「考察」と評価可能な部分がただの1行も含まれていないようなものが存在することも事実だ。
他の研究者の思索や著作を尊重すべきことは当然のことだ。しかし,それを素材としながら自己の思索を深め,その結果を公表するのが学術論文の使命なので,自己の思索を全く含まないようなものは,とても恥ずかしい。
それを恥ずかしいと感じないようであれば,そのことのみによっても,「学者としては失格だ」と評価することができる。
もし翻訳する能力しかもっておらず,自己固有の思索の能力はもちあわせていないというのであれば,学者をやめて翻訳家の下請業に転職すれば良い。日本国憲法は,職業選択の自由を認めているので,転職は自由だ。しかし,学問し,その結果を公表すべきことを債務の本旨とするような大学との間の雇用契約に基づく場合,その債務を信義誠実の原則に基づいて履行できないのであれば,それは,単なる債務不履行の一種に過ぎないので,雇用契約の解除原因となり得る。なお,本当は,翻訳業の世界においても,必死になって関連知識を収集し,考察し続けるのでなければ1流としての座を維持することができない。それゆえ,何ら努力することなく,単に機械的に翻訳するだけならば,その者は翻訳家の下請業の域を出ることができない。そして,そのような単純で機械的な業務は,近未来においては,情報処理システムによって取って代わられる可能性がある。
一般に,学術論文のような表現物のことを「作品(works)」と呼ぶ。それは,作品でなければならないし,まさに「work」の結果でなければならない。その「work」とは,当該作品の作者による創作によるものであることを要するから,単なるコピペまたはそれに類するものを含まない。
一般に,他人の作品の翻訳物または翻案物に過ぎないものを自己のオリジナルの作品として公表する剽窃行為は,大学教授としての著しい非行行為と判断され,当該大学の人事権に基づく懲戒解雇を免れない場合が多い。
最近のコメント