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2016年10月31日 (月曜日)

EU:WhatsAppのプライバシーポリシーは違法

下記の記事が出ている。

 WhatsApp warned over Facebook data share deal
 BBC: 28 October, 2016
 http://www.bbc.com/news/technology-37801664

 WhatsApp asked by European regulators to pause sharing user data with Facebook
 Guardian: 28 October, 2016
 https://www.theguardian.com/technology/2016/oct/28/whatsapp-pause-sharing-user-data-facebook-european-privacy-regulators-yahoo

利用者に対して正確に情報を伝達し,個人データが誰に対してどのように売られているかの情報を全面開示した上で,それでもよいという明確な同意をした利用者との関係においてのみ適法となるビジネスモデルだ。しかも,Facebookが利用者のデータを第三者に販売する場合には,事前にその旨を個々の利用者に通知し,異議のある利用者のデータについては削除等をしなければならないなど,このようなビジネスモデルで事業遂行をすることが事実上不可能な法制となっている・・・ということなどを十分に理解した上でこの記事を読まないと,何のことやらわからないだろうと思う。

日本の法制はEUの法制と比較するとかなり粗末で不十分なものなので,日本の法制だけを理解してこの記事を読むと,理解を誤ることになる。

(余談)

EUの法制では,個人データの「利活用」と称して個人データを商売道具にし,それを流通させることを認めていない。「個人データの自由な流通」とは全く別のことを意味しており,「構成国間における法制や技術の相違により,公務または事業の遂行上不可欠となるような業務処理に必要な個人データの移転の妨げにならないようにするため,構成国間の法制と技術を標準化すること」を意味している。「自由(free)」とは,「不合理な阻害要因がない」ということを意味するだけであり,積極的に「個人データを売買の目的にする」という趣旨を全く含まない。それゆえ,「個人データの自由な流通」だけを別の法益として独立に解釈することは許されない。

これを日本国の状況に照らして考えてみると,日本国の個人情報保護法制は,EUの法制に適合しないとの判定を受けているので,個々の企業が標準約款等により個別にEU当局と折衝して妥結を得た企業だけがEUとの間で個人データのやりとりをすることができるという状況になっており,個人情報保護法の改正後も全く同じ状況が続くだろうと考えられる。

その前提で,個人データの「利活用」なる名目で個人データの売り買いの商売をしている企業は,今後,EUとの個別折衝において,「妥当ではない企業」として扱われ,EUとの間での個人データのやりとりを禁じられる可能性が強い。つまり,EUとの間での貿易をすることができなくなる可能性がある。

(余談2)

一般に,匿名化されたデータであれば流通可能と考える見解が多く,個人情報保護法の改正によりそれと関連する条項が盛り込まれた。ただし,現実にどのように運用されるかについては未知数の部分が多い。

一般論として,「匿名化すれば個人データではなくなるのか?」という問いに対する一義的な回答は存在しない。それは,環境と文脈によるからだ。

例えば,「ある特定の場所に特定の企業が製造したスマートフォンを所持している者の数(数値)」だけを示すサービスが存在すると仮定する。この場所がGPSにより1メートル四方に限定して特定されるような精度の高いものであった場合,「現実のその場所に現在存在している者が,特定の企業のスマートフォンを所持している」という事実を示す要素となり得るので,その数値情報は,個人データの一部となり得る。群衆の場合も同じで,「ある会場に集合している者の数が100名」であるような場合,「当該場所に所在している特定の企業のスマートフォンの数(数値)が100個」だとの情報が提供されれば,「その場所に集合している者が全員その企業の製品を所持している」ということを示す個人データの一部となり得る。

以上のようなことを理解することができれば,実は,データの匿名化が何の解決ももたらさないことがあるだけではなく,その安易な利用が社会的弊害をひどく増幅してしまうことがあり得るということを認識することができる。

理論的には,マーケティングに利用可能な情報とは,統計による集計結果のような数値だけであり,他のデータとの突合により個人識別可能な状態とするデータを含まないということになるだろう。私は,一般個人データ保護規則の参考訳の脚注の中でそのような考え方を定式化して示しておいた。

すなわち,匿名化されたデータであっても,何らかの方法で個人を対象とするマーケティングに利用可能なものは,個人データである。そうでなければ,個人を対象とするマーケティングにそのデータを用いることができないので,これ以外の結論はあり得ない。

[追記:2016年11月1日]

関連記事を追加する。

 Civil rights groups: Facebook should protect, not censor, human rights issues
 Guardian: 31 October, 2016
 https://www.theguardian.com/technology/2016/oct/31/facebook-human-rights-censorship-civil-rights-mark-zuckerberg-aclu

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