セックス用ロボットをめぐる議論
下記の記事が出ている。
At last, a cure for feminism: sex robots
Guardian: 10 June, 2016
http://www.theguardian.com/commentisfree/2016/jun/10/feminism-sex-robots-women-technology-objectify
In the future 'teenagers could lose their virginity to sex robots'
Mirror: 10 June, 2016
http://www.mirror.co.uk/tech/future-teenagers-could-lose-virginity-8153636
【セックスロボット】数年以内に「初体験の相手」となるリスク、英科学者が警鐘
Newsweek Japan: 2016年6月17日
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5344.php
ここでの議論を読んでいると,想像力のあまりの欠如と現実認識のあまりの欠落に驚かされる。
数年後が問題なのではなく,既にこの種のドールやツールを愛用している人々がかなり多数存在しているという事実がある。生きたヒトの異性ではなにかと面倒くさいので,そうしている場合もあるだろう。そのような場合には,異性を性の道具としてみる傾向が発生することはない。性的快楽をヒトによって得るということを捨てているだけなのだ。
上記の議論は,「セックスは健全な男女の間で繁殖のためになされるべきものだ」との固定観念に依拠するものと推定され,そのような考え方は,現代のジェンダーの考え方とは根本的に矛盾するものだ。また,現代の社会においてユニ,バイ,同性愛等と社会的評価されるような場合を含め,性に関する多様な価値観が支配的になりつつあるという現実を全く無視している。
そして,この種のロボットは過渡的なものとなる可能性が高いということを認識しておらず,未来に関する想像力の乏しさを強く感じさせる議論となっている。
VR技術がどんどん発展すると,物理的にヒトのメスまたはオスの形状をしたロボットである必要が全くなくなる。例えば,映画『マイノリティレポート』に出てくる快楽マシーンのようなものが主流ということになるのではないかと思う。快楽は脳内に存在するものであり,性器その他の表皮的な器官に存在するものではない。性器に快楽が生じていると脳が判断しているだけのことなので,脳に対して直接に快楽を発生させるような電子装置が誕生すると,ヒトの形をしたロボットの需要はなくなる。そのような装置は,映画『マイノリティレポート』に出てくる快楽マシーンのような大型のものである必要はなく,耳道にはめこむタイプのイヤホンのような小さな装置で無線通信により接続された人工知能型クラウドによって実現することができる。
いつも書いているとおり,未来社会では,ヒトは工場で生産されるようになるだろうと想像されるので,繁殖のための性行為というものの社会的必要性も全くなくなってしまうことだろう。そして,そのような快楽装置によって得られる快感は,人間との性交によって得られる快感よりもはるかに大きなものとすることが技術的に可能と思われるから,ヒトはヒトを相手に性交するという欲望を喪失することになるだろう。
その結果,処罰のリスクを冒してまで快楽を得る必要性が喪失するので,強姦や強制わいせつのような行為も徐々に減少することになる可能性がある。
以上を前提とすると,現在のような一定の宗教観のようなものを前提とした倫理や法哲学が全く機能せず,理性的人間というものを前提とする法学理論の成立の根拠が喪失してしまう時代が到来することになる。
それゆえ,古典ギリシア時代から続いてきた基本哲学を全部捨て,全く新たなところから世界全体を説明できるような理論を最初から構築することが求められていると言えるし,それができる学者でなければ学者としても生き残ることができないということが確実だと考えられる。
(余談)
ジョージ・ルーカスの映画『THX 1138』に出てくるような形質上の性的特性を全て消去した社会を想定しながらものごとを考えてみると,現在の諸々の議論がいかに不徹底なもので,実は特定の傾向性のある主張を隠蔽した偽議論だということに気づくことができる。
このことは1997年に刊行した『ネットワーク社会の文化と法』の中でも明確に示唆しておいたことなのだが,まさか20年足らずで現実の議論となるとは著者である私自身の想定を覆すものだと言える。私自身の想定としては,自著が評価されるには少なくとも30年以上かかるだろうと考えていたし,現実の世界がそうなるには50年以上もかかるだろうと思っていた。私自身の想像力の甘さを痛感している。それゆえ,最近公表している論説等では,あまり遠慮することなく,ずけずけと書くようにしている。
[追記:2016年7月4日]
関連記事を追加する。
Would you become a robophile? Sex with ROBOTS could replace intimate human relationships within 30 years
Daily Mail: 30 June, 2016
http://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-3668305/Would-robophile-Sex-ROBOTS-replace-human-relationships-30-years-women-sex-droids-men.html
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