佐野智也『立法沿革研究の新段階-明治民法情報基盤の構築』
佐野智也氏から下記の書籍の寄贈を受けた。ありがたい。
佐野智也
立法沿革研究の新段階-明治民法情報基盤の構築
信山社(2016/5/20)
ISBN: 9784797217247
http://www.shinzansha.co.jp/book/b238137.html
佐野智也氏は,法情報学の分野における電子技術の応用において近年注目すべき研究成果を続々と発表している研究者の一人で,学会の際や電子メール等で意見交換をすることがしばしばある。この書籍を刊行するということは聞いていたので,刊行されたら購入して読んでみようと思っていた。昨日,会議を終えて帰宅したら届いていたのでざっと通読して感謝のメールを差し上げた。そのあとで,全体を精読した。
結論として,非常に有用性の高い書籍だと思う。
法情報論の分野では,主として法学教育分野での応用例ではかなり充実してきていると思うのだが,法学研究手段として法情報データベースを構築するという面では,通常の法令データベースや判例データベース等が主たるもので,立法事実に着目したビッグデータ的なデータベースの構築は不十分だと言える。かつてSHIPプロジェクトではそのようなものを目指し,技術的手段としてXMLの応用を考えていたのだけれども,研究予算が更新されなかったことと技術開発面の中心となっていた故小松弁護士の死去により,研究を頓挫せざるを得なかった。その当時蓄積しておいたデータの複製物は佐野氏に提供してある。是非ともこれを活用していただきたいと思っている。そして,立法事実を重視した法情報システム研究のエースとして,この分野の第一人者になってもらいたいものだと大いに期待するところだ。
本書においては,構築されたデータベースシステムを用いて,実際に民法(主として物権法)の立法沿革の研究にどのように応用可能かという実例が多数収録されている。法制史の学術面に関しては,帝国議会における議案説明書だけでは足りず,今後,当時のフランス民法と関連法令,当時のフランスにおける民法学説,ボアソナード独自の見解等に関して更にデータを蓄積し,縦横無尽に検索・調査できるようにすることが求められるだろうと思われるが,このことはデータベースを用いないで人間の法制史学者が研究する場合でも同じことなので,研究のための共通のプラットフォームとして立法沿革を重視したデータベースが存在し利用できることの意義は極めて大きいと思われる。
法情報学や法制史関連の研究者のみならず,広く知識工学や情報論と関連する分野の研究者には特にお勧めの一冊ではないかと思う。
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