町村泰貴・白井幸夫編『電子証拠の理論と実務-証拠・保全・収集-』
下記の書籍の寄贈を受けた。かなりしっかりとした書籍なので,ちょっと時間をかけて少しずつ読んだ。主要な部分は一応精読できたと思う。
町村泰貴・白井幸夫編
電子証拠の理論と実務-証拠・保全・収集-
民事法研究会(2016/4/5)
ISBN:9784865560749
http://www.minjiho.com/shopdetail/000000000851/
本書の特徴は,よくある実務書とは異なり,理論的検討とりわけ比較法的検討がきちんとなさているという点にあるだろうと思う。本書の半分は,そのような理論的検討結果を示すものとなっている。
一般に,学問である以上,どのように考えようとそれぞれ自由なのだが,電子証拠に関する限り,国境とは無関係に法制度を考察し法解釈論を構築しなければならないため,比較法的検討が不可欠のものとなる。本書は,世界の主要法令や制度等について一応全部触れており,更に詳しく知りたいと考える場合の手掛かりを提供しているという点で,理論書としても非常に優れていると思う。
他方,本書の半分は実務書としての十分に満たすものとなっている。架空の議論ではなく現実に問題となりそうな課題に重点を置いてテーマ設定しているところは好感をもてるし,また,実用性も高いというべきだろう。
欲を言えば,立法論的提言が乏しいということにあるだろうか。『Q&Aインターネットの法務と税務』でも指摘していることなのだが,本執行にしろ保全執行にしろ証拠保全にしろ,強制執行の方法がちゃんとしていない。それゆえ,実体法に関する議論をいくらしても現実には何もできないということが起きる。今後は,広い意味で執行法の検討が重要となるものと考えるし,現実の執行方法に重点を置いた実務書・理論書の登場が待たれる。
なお,電子証拠に関しては,1988年に「電子記憶媒体に関する若干の考察」を発表して以来,ずっと考えてきた。現在でも解決できていない問題が多々ある。とりわけ,物体と切り離された処理または現象それ自体が証拠となる場合については(かなり以前から問題点を指摘してきたものの)結局,誰もちゃんと研究していない。『機動戦士ガンダム』のアムロではないが,「重力にとらわれている」のではないかと想像する。
これからの若い世代の研究者の活躍に期待したいと思う。
(余談)
若い世代の研究者は,量子コンピュータについてしっかりと勉強すべきだろうと思う。
量子コンピュータによる処理との関連では,これまでの普通の民事訴訟理論と刑事訴訟理論が全部通用しなくなる可能性があるからだ。
誰もまだちゃんと研究していないので,研究のしがいのある領域だろうと思う。
私自身は随分と老けてしまったので,盆栽いじりで余生を送ることとしたい。
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