« OnionIRC | トップページ | 中国:AppleのiBookとiTunesに対して厳格な規制 »

2016年4月23日 (土曜日)

考古学ジャーナル2016年5月号(683号)

先日,三省堂本店に寄ったら下記の雑誌が出ていたので購入して読んだ。

 考古学ジャーナル2016年5月号(683号)
 特集:原始・古代の植物繊維資源化技術―遺物誌・実験誌・民俗誌から探る―
 http://www.hokuryukan-ns.co.jp/magazines/07journal/j2016_05.html

特集記事に収録されている論文は次のとおり。

 山田昌久「総論 植物繊維利用に関する遺物誌・実験誌」
 中市日女子・高田和徳「シナノキ繊維利用技術の実験誌:御所野縄文公園の例」
 鈴木茂樹・清水則久・三好清超「コウゾ靭皮利用の民俗誌調査」
 渡辺淑恵・奥山奈津子・秋保佐恵子・桜井了「カラムシ資源化技術の実験誌:傾斜棚構造機の使用例」
 高田秀樹「フジ靭皮利用の民俗誌」
 小野綾夏「人関与生態系内のツヅラフジ生長観察誌」

どれもとても勉強になった。

地味な研究分野だし,日の当たるところに出る機会が乏しいというのが現実ではないかと思う。その意味でも非常に良い企画だと思う。

一般に,『万葉集』の研究にしても何にしても,自分の空想だけで「植物」のことを書き,解釈を述べているものが決して少なくない。しかし,実験的研究結果等を踏まえて考えると,「そのような解釈は物理的に成立しない」と断定せざるを得ないような解釈が結構たくさんある。

空想的文学論は全部廃止し,実証的文学論の方向に進むべきだということは何度か書いたのだが,そのためにも実験考古学の領域から更に豊かな研究成果が現れることを期待したい。

ただし,実験考古学の世界においても,古代の植物について「思いこみ」があり得るということには留意すべきだろうと思う。歴史学の世界で常識と考えられている植物の同定が正しいとは限らないという例があるからだ。

実は,考古学の世界でも同じようなことがある。例えば,考古学者が判断(植物の同定)に悩んで出土物の目録に「サクラ」とだけ記載していても,それは,普通はサクランボ等を含む「サクラ属の植物」ということを意味しているので,現代の一般人が想像するような「サクラ(サトザクラ)」のことを指しているのではないことがある。

にもかかわらず,考古学の成果が「サクラ(サトザクラ)」なので,そのような植物が存在したと仮定して実験考古学を開始すると,間違った前提に基づく研究になってしまうということがあり得るのだ。

「アサ」と「カラムシ」との関係でもそうだ(ただし,この場合には,邪馬台国と倭國に関する中国正史の読み方の相違の問題に大きく影響を受けている。)。

それゆえ,関連学問領域間での連携がとても重要になる。

|

« OnionIRC | トップページ | 中国:AppleのiBookとiTunesに対して厳格な規制 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« OnionIRC | トップページ | 中国:AppleのiBookとiTunesに対して厳格な規制 »