考古学ジャーナル680号(2016年2月号)
考古学ジャーナルのバックナンバーを明治大学の博物館等所蔵のもので一応全部読み,最新刊のものについては,三省堂の本店で購入して読むようになった。先日,680号が出ているのを見つけ,早速購入して読んだ。
考古学ジャーナル No.680
特集:地方官寺と律令国家
ニューサイエンス社
ISSN 0454-1634
本号に収録されている論説はいずれも力作ばかりで,とても勉強になった。
とりわけ,西田紀子「百済大寺と大官大寺」と梶原義実「国分寺成立の様相」は興味深く読んだ。私は,これまで中国の古代における寺院遺跡に関する中国語論文や書籍等を収集し読んできたのだが,それらと比較すると非常に面白い。西田紀子論文の結論部分でも中国の古代寺院との比較検討の重要性(特に北魏との関連)が示唆されている。
私見によれば,寺院伽藍配置の特徴により,それぞれの寺院を支配していた豪族の系統をある程度まで推測することが可能なのではないかと考えている。寺院伽藍が日本国独自の文化として日本国で発生したと考える学者は皆無だろう。それら全てが朝鮮半島からやってきたと主張する見解もあるけれども,そのような見解は空理空論または単なる空想に過ぎない。古代中国(特に三国時代~五胡十六国~唐の時代)のどの時代のどのような様式を最も強く反映しているのかを比較検討するという要素解析的なやり方が最も生産性が高いと考える。
なお,中国東北部の仏教遺跡(高句麗遺跡など)に関する研究書が中国でどんどん刊行されており,それらも入手可能なものは入手して読んでいる。極めて興味深い。
本号には,速報として,吉村靖徳「福岡県 古賀市船古墳」が収録されている。発掘された馬冑に関する記述等も興味深いが,現代の考古学が化学分析や電子技術を駆使するものへと変化しつつある様子が実例で示されており,勉強になった。私も自然科学上の最新技術に関して基礎的な勉強を重ねなければならない。
国内初の金銅製歩揺付飾金具出土 船原古墳遺物埋納坑
古賀市
http://www.city.koga.fukuoka.jp/bagu/
本号の巻末にある唐澤至朗「榛名山周辺の火山災害遺跡群」は,榛名山大噴火によって火山灰や火砕流に埋没してしまった古代集落発掘の現状に関するもので,それによると,埋没後の復興状況を示す遺跡もみつかっているとのことだ。この復興を担った人々について,埋没した集落の生き残りであると推定することも可能だが,新たに別の集団が屯田したと考えることもでき,非常に興味深い。榛名山,赤城山,浅間山,白根山等の火山は現在でも活発に運動している時期にあり,ある日突然大噴火をする可能性は今後何千年も続くことだろう。その意味で,考古学上の重要性もさることながら,現在における防災というものを考える上でも,また,人間というものの存在それ自体を思索する上でも,非常に重要な遺跡群なのではないかと思う。
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