蕭聖中『曽侯乙墓竹簡-釈文補正暨車馬制度研究』
下記の書籍を読んだ。
蕭聖中
曽侯乙墓竹簡-釈文補正暨車馬制度研究
科学出版社(2011/7)
ISBN: 9787030300058
中郷湖北省随県にある曽侯乙墓からは大量の竹簡が出土している。
本書は,出土した竹簡を整理・解読した上で,主として馬及び戦車に関する竹簡文書の解釈を提供するものだ。
私の研究テーマと直接に関係する竹簡文書の解読も多数含まれていて,驚いた。
本書の後半部分では,戦国時代の戦車を構成する各部品の名前,異なる様式の戦車の名前,馬の名前等を『淮南子』,『周禮』,『詩經』等の古典漢籍にある名前と対照して整理してあり,とても参考になる。従来は「よくわからない名詞の一種」として想像のみで解釈されてきたことが実物でもって対照できるようになったと言える。おそらく,『淮南子』,『周禮』,『詩經』等の解釈にも重大な影響を及ぼすものではないかと思う。
馬の名前をみていて,今も昔も同じような名前をつけるものだと感心した。あるいは,当時の命名法がそのまま日本に渡来して定着してしまったものかもしれない。
優れた資料だと思う。
(余談)
竹簡に記載されている文字を,古代のアッシリア語やエラム等で読めるかどうか試してみると,意外と面白い結果が出るのではないかと思う。
(余談2)
諫早直人『海を渡った騎馬文化-馬具からみた古代東北アジア』(風響社,2010)を読んで疑問に思っていた部分が少し解決できたように思う。
あくまでも一般論に過ぎないが,ある時代のある国における馬具や武器等が全て同一規格になっていなければならないということは全くない。日本の戦国時代でも,自分の力量を誇示しようとする武将がそれぞれ自分流の甲冑を身に着けていたのだが,だからといって,それぞれの武将が全部異なる民族・種族や文化に属していたなどと馬鹿げたことを考える者はいないだろう。古代でもきっと同じだったろうと思う。
それゆえ,ミクロ的な考察の重要性を全面的に肯定した上で,おおまかなマクロ的な感性も重視すべきだと思う。ただし,後者の能力は,芸術的才能の一種なので,神に選ばれた者にのみ宿るものだろうと推定している。
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