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2016年1月15日 (金曜日)

橋口達也『弥生時代の戦い-戦いの実態と権力機構の生成』

下記の書籍を読んだ。

 橋口達也
 弥生時代の戦い-戦いの実態と権力機構の生成
 雄山閣 (2007/1/20)
 ISBN-13: 978-4639019589

九州の甕棺に埋葬された人骨と一緒に発見される銅剣の破片や銅鏃等から何らかの戦闘行為があったのではないかとの仮説をたて,非常に多くの人骨等について丹念に調べた結果をまとめたものだ。

特に頭部のない人骨に関する指摘は重要だと思う。

現在では著者の出した結論が多くの人々によって支持されていると思う。平和で牧歌的な時代ではなかったということだけは明らかだと思う。

著者は,台地上の農耕から低地での水田耕作等へと移行するにつれ,土地争いが生じ,集落間で戦闘があったのではないかと推定している。ただ,本書の執筆当時,集落全体が戦闘によって完全に破壊されたことを明確に示す考古学上の発見がないことから,倭國乱のような大規模な戦争状態の発生を証明することはできないが,今後,そのような集落の破壊を示すような遺跡の発掘があるかもしれないと示唆している。

誠実な研究成果を示す書籍だと思う。

ところで,私見としては,上記の頭部のない人骨や,貝殻を用いた腕輪などを見ると,直観的には,ケルト人の習俗を連想してしまう。ケルト人には首狩りを行い,それを誇示することによって部族の優位を堅持する習俗があったらしいからだ。ケルト人の習俗では,刈り取った頭部は,集落の入口の門などに並べておいたものらしい。加えて,中国の史書によれば,倭人は刺青をしていたとの記述があるから,これまたケルト人(ピクト人)等の習俗と一致し,そして,広い意味でのケルトの一種と考えることもできるスキタイの文化(パジリク遺跡から発見されたミイラ)とも類似するものと考えることができる。同様の刺青は,中国の南部地域(江南)には普遍的に存在していたもので,文化的には共通のものがある。

また,私見としては,集落間で全面戦争状態が発生することを避けるため,それぞれの集落から勇者が選ばれ,決闘または力比べのようなことをし,それによって水争いのような紛争を解決したというようなことも考えられる。

武器=常に戦闘または戦争ということにはならない。現在の暴力団の間の抗争をみても,比較的小規模の殺傷事件が何度かあり,形勢が明確となると組と組との間で手打ちが行われるといった結末になることが比較的多い。組員と組員が総力戦的に戦闘状態に入ることはない(戦国時代とは,そのような暴力手段を社会構造の基本部分とする武力組織が肥大化し,かなり大規模な出入りが日常的に行われたものと考えることができる。軍事国家というものは基本的にそのような政治力学的な社会構造をもつ。)。

このように,古代の人骨から銅剣等による殺傷の事実が推定される場合でも,それがどのような状況で発生したのかについてまで推測が及ぶわけではないので,今後は,考古学だけでは解決できない問題を比較民俗学や比較神話学等の知見も加味して総合的に考察すべき段階に入ったと思われる。

この分野での文系研究者を養成し研究費を支援する必要がある。

(余談)

ちゃんと調べていないので間違いかもしれないが,ヤクザが勢力範囲として支配している地理的範囲を示す「シマ」という語について,かなり古い起源をもつものかもしれないと思っている。

古代の環濠集落は,集落の物理構造として島(嶋)となっている。その周辺の低地にある水田等を合わせると,やはり島(洲)として観念することができる。その支配権もまた,「シマ」として理解することができ,「みかじめ」として納税的な行為を行う者もいたことだろうと思う(「みかじめ」の語源は不明とされる。仮に古墳時代以降に発生した語と仮定すると,「屯倉絞め」または「屯倉占め」といったような類の語が起源となっていると考えることもできる。)。

要するに,多数の環濠集落が併存する古代社会を理解するにあたり,教条主義的なマルクス史観はもとより,お行儀のよい通説的な理解でもダメで,もっと低俗な理解からはじめたほうがより真実に迫ることができるのではないだろうか。古代に関する限り,意外と徳川史観のほうがより正鵠を得ていると認めることができるのではないかと思う。

なお,下記のサイトも参考になる。

 青谷上寺地遺跡のひとびと
 青谷上寺地遺跡の動物たち
 http://www.pref.tottori.lg.jp/69171.htm

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