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2016年1月24日 (日曜日)

大林太良『日本神話の起源』

下記の書籍を読んだ。

 大林太良
 日本神話の起源 
 角川新書(1961/7/5)

古い書籍なのだが,本書が書かれた以前の研究状況が反映されており,一般向け書籍でありながら学術的にも高い水準を示している。本書の著者は,非常に頭脳明晰な方で,天才の一人なのではないかと思う。

通読してみて思うことは,著者が意図したかどうかは別として,ケルト(スキタイ)的要素が濃厚に示されているということだ。例えば,79頁で引用されているフロベニウスの考え方を地図でまとめた図を見れば,そのことをすぐに理解することができる。

現時点では,比較神話学が全体としてかなり進歩しているとはいえ,本書は,この分野における代表的な書籍の座を維持しているのではないかと思う(現代におけるスキタイやケルトの影響を考慮に入れると,修正されるべき部分があると考える。しかし,本書が刊行された年代を考えると,すごい本だと思わざるを得ない。)。

なお,108~109頁にあるハイダ族とキノールト族の伝承を読んでいて,ちょっと考えることがあった。比較神話学にはかなり素朴なレベルでの生態学的な考察を加味する必要があるのではなかろうか。

例えば,ある一定の土地範囲において,人口の増加により獲物となる動物の密度が低下した場合,何が起きるかを想像してみると,勝者となっても後味の悪さの残る生存を合理化するための説明として神話のようなものが必要となるのではなかろうか?

このことは,狩猟民だけの問題ではない。むしろ,比較的広い範囲を専有する必要のある農耕民では,その深刻さがもっと厳しいかもしれないと思った。

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