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2016年1月 2日 (土曜日)

芳賀日出男『日本の民俗 祭りと芸能』

近隣の書店の書棚に下記の書籍が並んでいるのを見つけて購入し,早速読んだ。

 芳賀日出男
 日本の民俗 祭りと芸能
 角川ソフィア文庫 (2014/11/25, 再版2015/11/30)
 ISBN-13: 978-4044094744

本書のオリジナルは,クレオから1997年に刊行されていたものなのだが,2014年に角川ソフィア文庫の中の1冊として文庫版で再発行されたとのことだ。私が購入したものは,2015年11月に再版になったものなので,かなり人気のある書籍と言えるのではないかと思う。

内容は,昭和9年頃から平成8年頃に至る日本の普通の人々の写真を集成したもので,学術的には民俗学の範疇に入る。巻末の解説を読みながら写真をながめていると「なるほど」と思うことが多い。

写真のタッチとしては,萩原秀三郎氏のほうがよりリアリティを追求するタイプのように思われ,芳賀日出男氏はよりストーリー性を重視するような感じがする。どちらを好むかは,読者の趣味・嗜好によるのでどちらがよいとも悪いとも言えない。確実に言えることは,両氏が撮影してきた「日本」はかつて普通に存在していたものだったのだが,現在ではその大半が消滅してしまったものだということだ。

古代史に限らず,現代史においても,ほんの少し前までの日本は現時点の日本とは相当異なるということをこのような写真から感じとることができる。そして,とりわけ古代史を研究する場合,いま存在している日本の姿を前提にものごとを考えては全くダメで,このような写真を1枚でも多く見てよく考えるという地道な作業を積み上げなければならない。

既に滅び去った日本の姿が写真として残されたことについて,この分野を生涯の仕事と考えずっと続けてきた写真家の方々には心から敬意を表したい。こういう写真集こそ,真の意味での文化遺産と言える。文化遺産を観光資源として金儲けの種にしようとする低俗な世界とは全く異なる何かがそこにはある。

(追記)

文庫版の『日本の民俗 祭りと芸能』は,元は『日本の民俗・上』として出版されていたもので,『日本の民俗・下』として出版されていたものの文庫版も角川ソフィア文庫の中の1冊として出ている。Amazonに注文したところ,すぐに届いたので読んでみた。

 芳賀日出男
 日本の民俗 暮らしと生業
 角川ソフィア文庫(2014/11/25)
 ISBN-13: 978-4044094751

こちらも非常に興味深い。

191頁に「箱そり」の写真があり,とても懐かしかった。小さい頃,近所の大工さんにつくってもらい,これに乗って遊んだものだ。ワインセラー栽培で有名なI氏によれば,この箱そりの原型は江戸時代の木製の「石台」にあるのではないかという。私もその可能性が高いと思っている。日本の優れた大工は,建物をつくるだけでなく,何でもかんでも作れる優れた技能を有していたものなのだが,某大手建築会社が「建築」という営みそれ自体をバラバラに解体してパーツ化してしまったため,日本の優れた文化の一つがほぼ消滅してしまった。基本的には,ごく少数の商人が広域の市場を独占しようとすることからそういう結果になってしまうのだが,日本だけ規制しても世界の経済活動というものはそもそもそういうものなので,文化の多様性が次第に奪われ消滅するという運動を止めることはできない。このことは,資本主義でも社会主義でも共産主義でも変わることはない。そのことは,中国の動向をずっと見ているとよくわかる。中国においても本来の中華文明は既に滅びたと考えてよいだろうと思う。

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