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2016年1月 2日 (土曜日)

岡野誠「唐代における法制度と医学史の交錯」

昨年図書館で下記の論説のコピーを入手し,昨年中にざっと読んだ。今年の研究の気合をいれるため,その論説を精読した。

 岡野 誠
 唐代における法制度と医学史の交錯
 法律論叢73巻2・3号99~128頁

冒頭には「これまで医学史の研究は、大学の医学部を卒業し現代医学の知識をもつことが暗黙の前提とされてきた。しかし四苦(生・老・病・死)はまさに人生の重大問題であり、これらを歴史学の問題として取り扱うことは、十分可能であり、また大変意義深いことでもある」と書かれている。全く同感としか言いようがない。

とりわけ古代の医学については,化石植物学や分子生物学の知識も含め,生物学や生態学等に関する豊富な知識を踏まえず,悪い意味での訓詁学的な本草学だけに頼っていると大きな間違いを起こすことになる。また,疾病の概念についても,歴史上の諸文献に現れている様々な思想を了解・会得することなしには理解できない部分が非常に多い。これらは,一見すると理系の学問のように見えるが実は文系の学問であり,より正確には,理系・文系の相違とは無関係な高く広く深い教養に基づく全人格的判断に基づくのでなければ必ず間違う。ゆえに,医学部卒業生だけの特権と考えるのは明らかに時代錯誤というべきだろう。

他方で,本論文でも明確に指摘されているとおり,古代の医制に関して研究する場合には,法源とその典拠の確実性に関する検証が何よりも大事となる。ここらへんになると法制史の専門家でなければ手も足も出ないことが多くなるのだが,私は私なりに小指の指先位は出せないものかと苦心を重ねている。まだまだ道は遠い。

本論文は,唐の太宗の逸話を踏まえ,当時の特殊な刑罰の実相に迫ろうという野心的なもので,何度か読み返してみて納得できる部分が多かった。素晴らしい論説だと思う。

私は,日本の『医心方』の中で何種類かの薬草(本草)に関する研究を重ねてきたのだが,正式の論文を公表するときは,岡野先生を見習い,テキストをきちんと考証・検証し,手堅く論説をまとめることを心がけようと思う。

(余談)

問題の特殊な刑罰は,則天武后の時代に執行されたものらしい。

私自身もテキストを丹念に読んでみたのだが,かなりおぞましい刑だったように思う。

とてもまともな人間が考えるような刑ではない。

則天武后の時代とは,すなわち白村江の戦の時代ということになる。

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