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2016年1月 1日 (金曜日)

後藤健『メソポタミアとインダスのあいだ-知られざる海洋の古代文明』

新年最初の読書をした。

 後藤健
 メソポタミアとインダスのあいだ-知られざる海洋の古代文明
 筑摩書房 (2015/12/14)
 ISBN-13: 978-4480016324
 https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480016324/

インダスとメソポタミアとの間に交易関係があったということは結構昔から知られていることだ。小学生の頃,亡き父から世界古代史のような書籍を買ってもらい,夢中になって読んだことがある。その本には既に書いてあったし,エジプトとの交易の可能性についても示唆されていた。その後,「海のシルクロード」なるものが有名となり,中国との関係においても海洋交易路の重要性が次第に世間的にも知られるようになってきたように記憶している。

本書では,最近の考古学上の発見に基づき,これまで仮説に過ぎなかった部分を実証のレベルで論じている部分が多い。古代の粘土版に記述された文書の解読結果が随所に現れるのだが,それを読むだけでも想像力がもりもりと湧き上がる。これまで世界の考古学の動きについては注意深く観察を続けてきたので,本書中の記述では素直に理解できる部分が多いということはあるが,それにしても本書で示される古代の資料(史料)の数々にはいやでも好奇心が刺激される。

ところで,本書の冒頭でも示唆されているように,いわゆる「四大文明」なるものは,キャッチフレーズの一種に過ぎず,実像とは無関係のものではないかと思う。

既に知っていることがかなり多かったので,そういう部分はさっと読み飛ばし,ちゃんと検討したことのなかった部分については精読するというような感じで読んでみた。

本書で触れている事柄の中で,「真珠採取」は通常想像されているよりも重要なことではないかと思う。倭國の古代史とも直接の連関を有するものかもしれない。海路はつながっているし,これまで考えられてきた以上に広域に航海がなされていたことは確実で,エジプト~メソポタミア~インド~東南アジア~台湾~琉球~倭國との間での海路を用いた人々の往来が結構普通にあったと考えることもできる。古代の海洋民族の本質そして古代の中国南部の人々の実質については,最も重要な部分で再検討を要するかもしれない。

「シャハダートのスタンダード」には特に好奇心を刺激される。これと関連する神話的要素の中でも特に重要なものとして樹木がある(私は,直観的には「扶桑」に通ずるのではないかと思う。)。

また,メソポタミアから輸出された工芸品にある神話的な図像の多くが周辺民族に大きな影響を与えたことは疑いがない(私は,メソポタミア以外の地域から出土している類似の神話的図像との関係に常に興味をもってきた。)。

本書を読む上で留意しなければならない点は,本書が主としてアラビア湾周辺の遺跡調査結果を基礎として他の地域(特にイランやインダス川周辺)との交易を推定しているということだ。これはこれで非常に重要な研究成果であることは言うまでもないのだが,より広域で文化や物資の交流(交易)をとらえるという立場からはかなり限定的な内容になっている。それゆえ,別の資料(史料)に基づいて推論すると別の推定もなり立ち得るということは常に念頭に置いておく必要がある。

以上のようなことを考えながら,本書を読み終えた。

交易関係を示す地図,当時の社会の変動を示す年表等が効果的に用いられているし,参考文献が巻末に列挙されていて更に深い研究のために有用ではないかと思う。

素朴に考えてみて,「四大文明」なるものがそれぞれ独自に発生したと考えるほうが少し頭がおかしいのではないかと思う。異なる地域の古代社会が相互に刺激し合いながら成長したと考えるほうが妥当だ。人類は「模倣」によって文明を発展させてきたのであり,それは人類の遺伝子の作用によるものだ。今後は,どの地域の何がモデルとなって作用したのかを推論するような研究が大幅に発展することを期待したい。

データベースやビッグデータ解析は,本来,こういう学術研究の分野で用いるべきもので悪徳商法のために用いるべきものではない。

また,過剰な民族意識のようなものは,独裁者を助ける役割を果たすために存在しているもので,世界平和に逆行するものであると同時に,学問上の真理探究についても深刻な悪影響を及ぼすものだと理解している。

(余談)

日本の古墳に描かれた壁画の中で,太陽神と舟と推定されるものとしては,鳥舟塚古墳(福岡県うきは市)と珍敷塚古墳(福岡県うきは市)のものが有名だ。

 屋形古墳群(珍敷塚・原・鳥船塚・古畑)
 http://www.city.ukiha.fukuoka.jp/imgkiji/pub/detail.aspx?c_id=71&id=18

 鳥船塚古墳-2個の石材だけになった装飾古墳-
 http://blog.livedoor.jp/warabite/archives/50057822.html

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