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2016年1月11日 (月曜日)

魏存成『高句麗渤海論集』

下記の書籍を読んだ。

 魏存成
 高句麗渤海論集
 科学出版社(2015/9) 
 ISBN: 9787030456946

本書は,吉林大学の論文集の中の1冊として出版されたもので,著者の長年にわたる高句麗及び渤海研究の成果を集成したものとのことだ。多数の論文をまとめたものなので,個々の章の長さはそんなに長くない。しかし,全体としてみると,ほぼ網羅的に全ての論点について触れているように思う。

全体をざっと通読してから特に興味をもっている事柄に触れた部分を精読した。

集安の高句麗碑(有名な広開土王碑とは別の石碑)の碑文解釈については別の書籍でも読んでいたのだけれど,本書ではより詳しい解釈論が展開されており,とても勉強になった。更に関連書籍を読みながら勉強を重ねたいと思う。

 集安高句麗碑-高句麗第19代好太王の名は「神武」?
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2014/11/19-ec93.html

やはり,高句麗の本拠地は集安周辺にあったのだろう。

高句麗の出自については諸説あるし,祖の洞窟なるものも発見されて話題になっている。最近では,扶余族の一種から発展したものだとの見解があり,本書もこの説を採用し,扶余族の一種の遊牧民である少数民族から発展したものとの見解を基礎としているようだ。おそらくこの説が将来の通説になることだろうと予測している。梁の『職貢図』の説明文にもそのような趣旨のことが記載されており,新羅及び百濟も民族としては扶余の一部だったのだろうと思う。

 鈴木靖民・金子修一編『梁職貢図と東部ユーラシア世界』
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-1bc9.html

 「蕭繹職貢図」にある倭人図
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-581f.html

本書には,高句麗及び渤海の遺跡やその出土物に関する考察結果も多数収録されている。図面の中に日本語で書かれたものがあった。驚いて出典を見たところ日本語の文献だったので,そのまま複製したものと推定される(同じ図面をベースにして中国語で説明部分だけを書き換えた別の図もある。)。

全体としてみると高句麗に関する記述が多く,渤海に関する部分は比較的少ない。しかし,渤海の遺跡の平面図等を含め,日本ではあまり知られていない遺跡や遺物の詳細を知ることができ,とても参考になった。

理論面においては,その当否を論ずるだけの能力がないので控えるけれども,理論面での論述に関する部分を除いて書籍全体としてみた場合,一覧性の高い資料集としての価値は絶大で,大いに参考になる。

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