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2016年1月 2日 (土曜日)

石田隆義『山陰の民俗と原始信仰』

だいぶ前に古書店から購入し,何度も読み返している書籍をまた読んだ。

 石田隆義
 山陰の民俗と原始信仰 
 私家本(1965/6/1)

奥付によると,著者の石田隆義氏は,本書刊行当時,島根県立邇摩高等学校の教諭だった方のようだ。島根県出身で立正大学卒とのこと。

私家本ということなので普通の書店では流通しなかったものだろう。しかし,その内容はすこぶる示唆に富み,何度読んでも何らかの発見がある。素晴らしい業績だと思う。

とにかく丹念に調べていることと着眼点のすばらしさには感嘆する。

本書の前半部分は,山陰地方で行われていた祭祀とその解釈を述べるもので,おそらく現時点では消滅してしまったものが少なくなく,残っていても当時とは相当異なるかたちで残されていると推定されることから(本書中にも,かつて行われていた様式が既に滅びてしまって簡略化されているとの記述が何か所かある。),民俗学上の記録としての重要性は高い。

本書の後半部分は,古代の信仰について,古代のアジアに共通する地母神信仰を措定した上で,天照大神等の神々の位置づけを考察したものだ。結論について賛否はあると思う。しかし,その考察のプロセスを追っていくと,普通はあまり気に留めないようなところに結構重要なヒントが伏在していることに気づくことができる。その意味で貴重な論考だと思う(一般に結論の賛否や当否だけで論考全体の価値を決めてしまうような向きが全くないわけではないが,これはよくないと思ってきた。)。

私家本のゆえに現存する部数はそんなに多くないだろうと想像する。良い本を入手することができ,幸運だったと思う。

更に勉強を重ねることにする。

(余談)

一般に,私家本とされているものの中には,唯我独尊的であまり参考にならないものもあるけれども,非常に優れたものを見つけることができる場合もある。

他方,当該分野の専門家により正式に学術書として出版された書籍の多くは,当然のことながら,さすが専門家が人生をかけて研究した成果だけあって素晴らしいものが多数あるけれども,中には愚かとしか言いようのないものや他人の著作物をパクっただけの違法物(剽窃物)を見つけることのできる場合もある。

しかるに,一般に,図書館では,専門家が正式に刊行した書籍については無条件で収蔵するけれども私家本については無視または冷遇する傾向が強い。民俗学を専攻する学芸員が在籍している博物館等では必ずしもそうではない。

結局,選書委員の知識・教養・能力の程度に比例して収蔵品の良否が決まるということなのだろうと思う。

調べてみたところ,この書籍は,国立歴史民俗博物館の図書室書庫には収蔵されているようだ。

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