芳賀日出男『ヨーロッパ古層の異人たち-祝祭と信仰』
芳賀日出男氏の著作に興味をもち,Amazon経由で古書店に注文したところ,すぐに下記の書籍が届いた。速い。
芳賀日出男
ヨーロッパ古層の異人たち-祝祭と信仰
東京書籍 (2003/3/1)
ISBN-13: 978-4487798322
注文してみた動機は,表紙写真にあった。そこには非常に長いとんがり帽子の写真が用いられている。芝山古墳の帽子とはだいぶ異なるが,とにかく読んでみたかった。
本文中を探してみると,その写真は118頁にあり,ブルガリアの祭祀で用いられるものだということが分かった。その前後の写真をずっと追っていくと,実に埴輪の頭部にある様々な形状の冠と似たようなものがある。おそらく,ルーツは同じところにある。この書籍に写真にある文化は,現在では比較的寒いブルガリアのものとなっているが,もともとは別の地域のものであったかもしれないと思う。
更に本書をくまなく読んでみた。非常に面白い。
雑駁な印象としては,羊頭,山羊頭,牛頭等の仮面をつけた祭祀が多数残っている。キリスト教ではルシファーとみなされるかもしれない。要するに,もともとは角のある動物を神聖なものとし,それと同化するための祭祀が存在したのではなかろうか。旧石器時代の洞窟壁画等には鹿等の動物の皮をかぶって踊る人物像が残されているが,原始的な状態では実物の動物の皮を着ぐるみのようにして用いたのだろうと想像する。このことは既に何度も書いてきたことで,岩手県に残る鹿踊りなどもそのようなものが変化して現在に至っているのではないかと思う。
スイスの「美しいクロイセ」は,日本の田楽で用いられる花笠と基本的には同じもので,その中でも四角いものは埴輪の巫女の頭上にある板状のものと同じルーツをもつものだろうと思う。
第一次世界大戦前の欧州にはもっと多様な文化が存在したことは第一次大戦前の古い写真によって推測することができる。その大部分は既に失われてしまった。
しかし,欧州は,英国やドイツだけでできているわけではないし,むしろ非常に複雑な少数民族の集合体として存在している。観念的なものとしてのみ「ヨーロッパ」は存在する。おそらく,古代においては,部族毎に王国をつくり,それぞれ異なる文化をもっていたのだろう。それが後代に至り,キリスト教の教義のゆえに,こうした素朴な祭祀は禁圧されてしまったのだろう。そうしなければキリスト教の指導者に権力が集中しないからだ。つまり,宗教的な理由ではなく,単純に政治力学の問題だと解釈する。
本書には宗教学的なことや政治学的なことは何も述べられていない。
しかし,本書に収録されている写真は非常に多くのことを語っているように思う。
本書の読後感として,三角のとんがり帽子は,結局,キリスト教の聖人とされるサンタクロースの三角帽子として現代に至るまで生き延びているのだろうと確信するに至った。皮肉なことだと思う。
| 固定リンク
コメント