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2016年1月 3日 (日曜日)

高槻市教育委員会編『藤原鎌足と阿武山古墳』

下記の書籍を読んだ。

 高槻市教育委員会編
 藤原鎌足と阿武山古墳
 吉川弘文館 (2015/3/1)
 ISBN-13: 978-4642082693
 http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b190501.html

本書の冒頭にある「凡例」によれば,本書は,平成25年12月22日に開催されたシンポジウムの記録に基づき加筆等を施した上でまとめられたものだそうだ。そのため,基調報告の記録に続き,各分野の専門家による講演記録が続き,最後にパネルディスカッションの記録が収められている。

どれも非常に興味深い内容なのだが,89~110頁に収録されている森田克行「鎌足墓と摂津三島の阿威山-乾漆棺、乾漆像の世界と漆部氏」から特に学ぶところが多かった。

全体を読みとおしてみて様々なことを考えた。

おそらく,「阿武(あふ)」と「阿威(あひ)」と「阿閉(あへ)」とは全く同じだろうと思う。したがって,「阿倍」または「阿部」とも同じと考えることができる。

次に,本書に収録されている写真に示されている遺骨の形状からして,倭人ではないと考えられる。脚部が長すぎる。解剖学をベースとして考古学を専攻している研究者であれば,当時撮影された遺骨写真及びX線写真が多数残されているので,それを仔細に観察することにより,写真鑑定だけでおおよその判断をつけることができるだろう。

更に,墓室の構造が,地下に空間を築造し,その空間内に墓所を構築する,つまり,地下の空間内に宮殿のようなものをつくるという構成になっている。これは,明らかに古代の中国の多数の王墓や貴族墓等でごく普通に見られる様式であり,日本の様式ではない。実際の阿武山古墳では,地下の空間の中に墳丘が造営され,その中に石室があり,その石室に棺が埋納されているという構造になっている。中国の墳墓の多くでは,この墳丘の部分が石材等でつくられた小型神殿のようなものとなっていることが比較的多いのだが,棺の上にかぶせる構造物はその地域によって異なるので,倭國では小型神殿ではなく墳丘と石室という形式をとったということに過ぎないのではないかと思う。

なお,この遺跡は,発掘途中で憲兵から「不敬罪にあたるおそれがある」として中止を命ぜられ埋め戻されたまま再発掘はなされていないのだそうだ。既に崩壊してしまっているかもしれないが,現代では憲兵も不敬罪も存在しないので,再発掘した上で,遺骨のDNA鑑定をすれば,かなり多くのことを理解することができるだろうと確信する。

所管官庁は,私見とほぼ同じ推測をしているので発掘をしようとしないのだろうと思う。ある程度勉強した人なら誰にでもできるごく平凡な推測だ。

(余談)

日本の古代史の中でも白村江の戦前後の時代について論じている人の中には,中臣鎌足は中国(唐)から進駐してきた将軍その人であり倭人ではないという説がある。

この説の当否を判断するだけの能力も知識も持ち合わせてはいないが,仮にこの説が正しいとした場合,「中臣」とは,読んで字の如く「中華の臣」という意味になるだろう。

藤原氏の家伝によれば,中臣鎌足(藤原鎌足)の居宅は近江(淡海)にあったとされているようだ。『扶桑略記』によれば,白村江の戦の後,唐からの進駐軍が近江に駐屯したらしいということを知ることができる。非常に興味深い。

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 仮説
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-2207.html

 林博通『大津京跡の研究』
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-87d3.html

 『扶桑略記』中の天智天皇に関する記述
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-1f07.html

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