安斎正人『気候変動と縄紋文化の変化』
下記の書籍を読んだ。
安斎正人
気候変動と縄紋文化の変化
同成社(2014/8/15)
ISBN-13: 978-4886216748
http://homepage3.nifty.com/douseisha/kouko/joumonn/joumonn.html#kikouhenndou2
非常に多数の考古学上の発見(石器や土器等)を丹念に調べ,それぞれの時代の海水面に合わせた地図上で遺跡等の位置を配置して図示し,骨の折れる作業を積み重ねた結果としての業績書だ。頭が下がる。
図はとてもわかりやすく,素人でもすぐに理解できるように工夫がなされている。
縄文時代にも寒冷期と温暖期とがあり,温暖期には現在の平地(低地)の大半が海の底だった。また,温暖期には現在の台地がかなり小さな島状に散在しているようになっているところが多く,おそらく現在の日本よりは現在のフィリピンやインドネシア等の国々とよく似た感じの地域だったのだろうと推定することができる。そのようなイメージをもちながら本書を読んでみると,出土する遺物の変化について「なるほど」と納得できる部分が多い。
一般に,黒墨(くろぼく)と呼ばれる黒土は,1万年以上の長きにわたる焼畑の化石のようなものだと理解されているけれども,その黒墨は低地ではなく山地などのやや標高の高いところに多く存在している。それもそのはずで,当時海だったところでは焼畑をしたくてもできない。低地の多くは,火山活動で噴出した極めて大量の火砕流や火山灰等が流れ下り堆積してできていると理解すべきで,そのために赤土のところが多い。
本書に収録されている資料は膨大なもので,それを暗記したくてもとてもできるような分量ではない。大づかみのところで概念を理解し,必要に応じて該当する頁にある資料を検索して考えるといったような使い方に適していると考える。
労作だと思う。
(余談)
過去数万年の間に日本列島は大きな地殻変動を何度も経験しているので,地形がまるっきり変わってしまったところが決して少なくないと言える。比較的最近の例としては,根尾谷断層(岐阜県本巣市根尾地域)があり,地震によって5メートル以上の段差がついてしまった。このような例は,風化によってわかりにくくなってしまっているかもしれないが日本国内にいくらでもあるのだろうと思う。
今後の研究としては,全国一律に海水面が高いまたは低いというレベルから更に発展して,地殻変動による垂直方向・水平方向への局地的な変化も加味した上でのより正確な歴史地図を作成するという面でも重質したものとすべきだろう。
そのようにして得られるより正確な知見は,現在の高校の授業等で用いられている歴史地図等に示されているものとは相当異なるものとなる可能性が高い。
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