田中晋作『古市古墳群の解明へ-盾塚・鞍塚・珠金塚古墳』
Amazonで予約注文していた下記の書籍が届いたので,早速読んだ。奥付の日付は2016年2月1日となっているが,既に販売されている。
田中晋作
古市古墳群の解明へ-盾塚・鞍塚・珠金塚古墳
新泉社 (2016/2/1)
ISBN-13: 978-4787715357
図などを効果的に用い,この分野の専門家でなくても容易に理解できるような工夫が随所にみられ,好感をもてる。専門的にきちんと調べる場合には,公式の発掘報告書を読み,正確な数字や数値を理解しなければならないのだが,大まかな概要をつかむためには,むしろ本書のような構成のほうがよいと思う。
古墳がどのようにして発見され,大学紛争当時の困難を避けるために30年近くも発掘物が検討されずに保管され,再発掘から現状までの歴史的経緯を基本骨格としつつ,この古墳群を含め現在の大阪府とその周辺の古墳で発見される武具等が何を意味するのかについて最新の知見がわかりやすく説明されている。
読んでみて理解できることは,現在,天皇陵として比定されている古墳の中の大部分が天皇家の祖先とは関係がないということだ。その意味では,宮内庁は,結果的に,確たる根拠もなく科学的な学術的調査を妨害し,真理の究明を阻止し続けていることになる。それはそれで(政治的な)意味のあることなのだろう。
本書の中では,古代の甲冑の技術的進歩(変化)について,図を効果的に用いてわかりやすく説明している。文字や数字だけでは理解しにくいことでも,このような図があれば誰でも容易に理解することができる。
武器と一緒に農具が埋葬されている例に関する説明については,私見と同じような感覚に基づくものだと理解した。明確に述べられているわけではないが,要するに,「屯田」がなされたことを示すものだという趣旨と理解することができる。
屯田は,漢~魏・晋の頃に中国で行われたものと同じもので,日本では明治維新後に北海道でも実施された。武装した農民が抵抗者を武力で排除しつつ農地を開墾し,その開墾した農地からあがる収穫の中の一定量を税として納めるという国家組織上の仕組みだ。屯田に関しては,中国(特に魏の時代)に行われたものに関する専門論文等を随分とたくさん読み,そこで理解したことを踏まえて「艸-財産権としての植物(1)」を書いた。基本路線としては間違っていなかったと再認識することができた。
日本の古墳時代の屯田は,大和王権が東方及び北方に及ぶのに伴い,軍事支配の下で兵隊が自ら農民の指導者として開拓するというやりかたがとられていたのだろうと推測する(九州と四国についてはやや謎の部分がある。)。加えて,大和王権の勢力が朝鮮半島で大規模に伸長するのに伴い,同じように屯田が行われ,前方後円墳等の古墳が造営されたのだろう。当時の朝鮮半島は戦乱(漢~魏晋の時代におけるジェノサイド的征伐)や大規模自然災害等により,ほぼ無人と言っても過言ではないくらいに荒廃していた可能性があると考えている。そういうところでは,武器と農具と併せて鉄製品の原料となる鉄のインゴットが一緒に埋葬されることになる。
現時点でも謎の部分はまだまだある。例えば,本書では,武器等が同一の墓所に大量に埋葬されている例をあげている。しかし,その理由については断定的なことを述べていない。私見としては,何らかの政治的な理由により,古墳の中に大量の武器等を隠匿せざるを得ないことが起き,そのまま掘りだされることなく忘却されてしまったものがあるのではないかと考えている。似たようなことは,第二次世界大戦後にもあり,GHQによる強制的な武器類の接収をおそれて,当時の神社等に保管されていた刀剣類が大量に埋められ,隠匿して,GHQによる接収を逃れたという例が実際にある。
現代と古代とは様々な意味でつながっており,そういうことを考える上でも興味深いテーマを提供している書籍だと思った。
今後,考古学上の発見が更に積み重ねられれば,古代史もまたどんどん書き換えられることになるだろうと思う。しかし,その経過を記録することもまた非常に重要なことで,本書は,その中の貴重な1冊になるのではないかと思う。
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