堀部政男編『別冊NBL No.153 情報通信法制の論点分析』
下記の書籍の寄贈を受けた。
堀部政男編
別冊NBL No.153 情報通信法制の論点分析
商事法務 (2015/12/29)
ISBN-13: 978-4785771256
個人情報保護法の改正を受け,これまでの学説上の議論を総まとめにしたような書籍と評価することができる。
「自己情報コントロール権」なるものが空理空論であることは既に何度も述べてきたとおりだし(米国の連邦最高裁によって,そのような権利は存在しないということが明確に宣言されている。),現時点でそれを信じているような馬鹿者は存在しないだろうと思う。新たな法理論の構築を要すると考えるのだが,本書中にはそのような新規の理論構成は全く含まれていない。これまでの議論の総まとめ的なものである以上,やむを得ないことだと思う。
私見としては,個人の法的利益保護という観点からは,民法及び民事執行法の解釈論と立法論を徹底すること,そして,刑罰による対処を更に強化することが大事だと考えている。
通信法制それ自体としては,行政法の分野に属するものなので,正しい政策論が求められる。
他方で,本書を読んでみると,英米法における判例法の形成プロセスに関する論述がない。現行法がEUの個人データ保護指令に対する対応という歴史的経過の中で制定され,改正されてきたものなので,むしろ自然のことだろうと思う。
ただ,通信法制の基本部分のかなりの部分が英米法における判例法の蓄積の上に構成されているものである以上,古い電信時代のものを含め,徹底した判例研究が求められていることは疑いがない。
個人情報保護法制がどうにかこうにか成長し始める段階になったので,より基礎的な部分について深く研究する研究者の養成が求められていることを痛感したというのが正直な読後感だ。
基本哲学を模索する者は,原ケルトやヴェーダに遡るジョルジュ・デュメジルの3要素説に基づく比較神話学に通暁するように勉強を重ねた上で,現代において写像を探せばよいだろうと思う。人類は少しも進歩していない(この関連のことは,「艸-財産権としての植物(1)」及び「艸-財産権としての植物(2)」の脚注内で既に示唆しておいた。)。
| 固定リンク
コメント