林俊雄『興亡の世界史02 スキタイと匈奴-遊牧の文明』
図書館から下記の書籍を借りて読んだ。
林俊雄
興亡の世界史02 スキタイと匈奴-遊牧の文明
講談社(2007/6/15)
ISBN-13: 978-4062807029
非常に面白い。良書と言える。
じっくりと読んだので少し時間がかかった。時間をかけてしっかりと読むべき価値がある書籍だと思った。
ずっと追いかけている芝山古墳のとんがり帽子のような帽子または冠については,本書中に多数のヒントが含まれていた。中国の墳墓壁画等に示されている奇妙に高く結った髪型をもつ婦人は,きっとスキタイ系の女性なのだろうと思う。そのような高く結った髪を納めるためにはその髪よりも高い筒状の帽子を必要とする。本書の197頁にあるスバシの遺跡から出土した遺骸は,まさにそのような帽子を被ったものだった。有名なイッシク古墳出土の「黄金人間」は,明らかに男性であり,高く尖った三角帽子(フェルト製?)を被っていて,その上に金の装飾がなされていたのだろう。
東胡(鮮卑の祖?)との関連についても興味深いヒントがあった。直接的には『漢書』を引用して呂太后と冒頓単于とのやりとりもその1つで(本書206頁),これは,伊弉諾と伊弉冉の婚姻の際の言葉の掛け合いと基本構造を同じくするものだと思う。現代ではセクハラになるのかもしれないが,古代では凸凹のことを素朴に口にしたものではなかろうか。また,本書282~294頁には匈奴の方墳について書かれており,時代的に前漢時代に相当する時代の倭國における方墳または方形周溝墓との類似性が疑われる。
本書は,スキタイとそれから分かれたと推定される諸族及び関連すると疑われる諸族について書かれたものなので,「・・・については日本史の専門家に譲る」等々としてぼかしているが,著者の史観が随所に示されており,極めて興味深い。基本的には,征服説に立脚しているものと思われる。
借りた書籍は,読み終えた以上,図書館に返却しなければならない。しかし,今後,何度も読み返したくなることが確実な箇所がいっぱいあったので,古書を購入することに決め,古書店に注文を済ませた。
(余談)
中国陝西省にある霍去病墓の馬踏匈奴石像の写真はこれまで何度も見たはずなのだが,本書243頁にある写真の説明文を読んで,匈奴の本質についての理解と本書著者の理解とがほぼ一致していることを認識した。そこには「ひげ面の匈奴」とある。「匈奴」とは,様々な部族の集合体だと考えられるが,その中でも特に重要な部族としては,印欧語族またはそれが混血した種族を示すものなのだろう。
(余談2)
匈奴が衰退する原因の1つとして,本書では大寒波,干ばつ等の大規模自然災害の存在を強調しているように思う。漢の武帝のころにそのようなことが起きたとすれば,そのころに難を逃れるべく,温暖な倭國に渡った人々がいたとしても少しもおかしなことではない。当時の倭國には存在しなかったと思われる鉄器の武器・農耕具及びその製造技術をもってすれば,少人数でも比較的容易に屯田可能だったのではないかと思われる。
(余談3)
古代の倭の諸国と古代の中国諸王朝との間の交通経路を考えてみると,直接に東シナ海を横断したという経路があったと考えられるものの,朝鮮半島経由の場合には,漢の武帝~呂太后の時代には必ず東胡ないし匈奴の支配領域を経由することになるから,倭の諸国と東胡ないし匈奴との間には何らかの密接な交流関係があったと推定するしかない。ところが,匈奴は,スキタイと同様,文字をもたないので,仮に倭の諸国と匈奴との間に交通があったとしても,歴史上の文献としてその痕跡が残らない。それゆえ,従来,この問題はあまり明確には意識されてこなかったのだろうと思う。しかし,物理的に不可避な出来事は当然に想定した上で古代史を構築すべきことは当然のことだと考える。伊弉諾・伊弉冉の結婚の際のやりとりが匈奴由来のものだとすれば,この時代に「大八嶋」への入植(屯田)が開始されたと考えるのが妥当だ。「八」は「倭」と置き換えることが可能であり,また,「嶋(島)」は「国」を意味するから(「嶋」は「羅(良)」とも同義。),「八嶋」は「倭國」と同義となる。
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