滝沢誠『古墳時代の軍事組織と政治構造』
下記の書籍を読んだ。
滝沢誠
古墳時代の軍事組織と政治構造
同成社(2015/11/30)
ISBN-13: 978-4886217042
労作だと思う。
古墳時代の遺跡から発掘される短甲の技術仕様の細部の変遷を丁寧に検証しながら,当時の時代状況の変化を推論する内容となっている。短甲と小規模古墳に特に注目した考察がなされており,とても興味深く読むことができた。
短甲についてはこれまでも優れた研究が幾つかあり,既に全部読んでいる。また,馬の兜である馬冑については下記の論文があるので,今回,丁寧に読み直してみた。
太田博之
埼玉将軍山古墳出土馬冑資料の基礎研究
日本考古学
Vol.1 (1994) No.1 P. 103-125
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonkokogaku1994/1/1/1_1_103/_article/-char/ja/
戦前の古典的な理解によれば,武具を含め,古墳時代当時の最先端技術は全て朝鮮半島(百済國)から渡来したものとされていたのだが,現時点ではほぼ全て間違いという結論になりそうだ。
極東の古代史は,根本的な部分で見直しが求められているように思う。農耕技術北上説と同様,武具等の工芸技術についても更に研究が深められるべきだろう。その大前提として,倭國の支配領域が最大限でも朝鮮半島の南端部にしか及んでいなかったという理解をいったんリセットしてしまう必要があるように思う。
ただし,学術としてはまだまだ過渡期にあるように思われ,結論を急ぎ過ぎると,とりわけ韓国の国民感情を逆なでするようなこととなって難しい問題を発生させる結果となりかねないので,この分野の研究者は論述に細心の注意を払わなければならない。とにもかくにも難しい時代だと思う。
しかしながら,観念によって事実を曲げることは許されない。むしろ逆に,間違った観念や誤解のようなものは事実によって是正されなければならない。その意味で,客観的な考古学資料による推論という手法は極めて重要であり,今後ますますもってこの分野の研究予算を増加し,研究者の数を増やすための国家的な努力が尽くされるべきだろうと思う。
また,この書籍を読んでみて思うことなのだが,この書籍で採用されているようなミクロ的な観察は極めて貴重であるものの,もっとおおっざっぱなマクロ的な観察も重要なのではないかと考える。
短甲についても,細部の相違は別として,基本的な構造がほとんど異ならず,しかも,それがほぼ日本国内のみで出土しているという点はかなり重要なことだと考えるからだ(例外的に,高句麗式という標題で倭式短甲の写真を掲載する中国の書籍があり,その書籍には出典が何ら記載されていないため,誤謬や作為の可能性も含め慎重に検討を続けている。)。
そのような前提で考えてみると,このような倭式短甲のルーツは一体どこにあるのだろうか?
非常に古い時代からあったと考えるのではなく,意外と比較的新しい時代にあるのではないかとの仮説をたててみると,『国造本紀』にある「国造」の分布との関連が疑われ,ある種の好奇心がむらむらとわいてくる。そして,その「国造」なるものの伝承も従来考えられてきたよりもぐっと新しい時代のもので,ある種の権威付けのために形成されたものではないかと考えることもできる。
基本的には,『古事記』や『日本書紀』に記載されている年代を一応無視し,主として中国の史書に記載されている年代との符合性を重視してみると,全体として(少なくとも大宝の時代すなわち西暦700年頃よりも前の時代については)日本国の歴史を相当圧縮して考えないといけないことになるのではないか(その結果,天皇の治世等も修正して考えなければならないのではないか)と思われる。これらは単なる想像の域を出ないのだけれども,仮説として成立可能かどうかを更に検討してみたいと思う。
そういうことなどをあれこれ思い浮かべながら読み終えた。
蛇足だが,本書で触れられている小型古墳の中には実際に現地に赴いて見てきたものが少なくなく,そういう意味でも感慨深かった。
本書の資料としての価値は極めて高い。
良い書籍と出逢えたと思う。
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