笹生衛『神と死者の考古学-古代のまつりと信仰』
下記の書籍を読んだ。奥付の日付は2016年1月1日となっているが,既に販売されている。
笹生衛
神と死者の考古学-古代のまつりと信仰
吉川弘文館 (2016/1/1)
ISBN-13: 978-4642058179
http://www.yoshikawa-k.co.jp/book/b213027.html
本書は,古代の祭祀について,最新の考古学上の発見を踏まえて平易に解説したものだ。しかし,単なるガイドブック的なものではなく,かなり興味深い論述が随所にみられる。勉強になった。
特に注目して読んだのは「神籬(ひもろぎ)」に関する部分だ。通説とは異なるが,私は著者の見解に基本的に賛成したい。
歴史的には,古代のどこかの時点で祭祀の基本的方法が変更になったと推定される。それを公式なものとして国家的な祭祀の基本とすべく,『日本書紀』の中に幾つかの祭祀儀礼を意図的に挿入してあると考えることもできる。例えば,仲哀天皇(足仲彦天皇)八年春正月己卯朔壬午条に「時岡縣主祖熊鰐 聞天皇之車駕 豫拔取五百枝賢木 以立九尋船之舳 而上枝掛白銅鏡 中枝掛十握劒 下枝掛八尺瓊 參迎于周芳沙麼之浦 而獻魚鹽地 因以奏言」云々とあり,また,「筑紫伊覩縣主祖五十迹手 聞天皇之行 拔取五百枝賢木 立于船之舳艫 上枝掛八尺瓊 中枝掛白銅鏡 下枝掛十握劒 參迎于穴門引嶋而獻之 因以奏言」云々とあるのは,その例ではないかと考えられる(ただし,古来のやり方も部分的に残ることになったと推定される。)。「足仲彦」は「息長彦」と読むべきものかもしれない。つまり,別の時代の別の出来事が仲哀天皇の事跡として記録されている可能性がある。ちなみに,『播磨國風土記』の「賀古郡」には「昔 大帯日子命 誂印南別嬢之時 御佩刀之八咫剣之上結爾八咫勾玉 下結爾麻布都 鏡繋 賀毛郡山直等始祖息長命一名伊志治為媒」云々とある。
「幣(みてぐら)」に関する記述も興味深い。その奉納様式の検討から,先の「神籬(ひもろぎ)」の本質を解明しようとする手法は説得力があると考える。
これに続く論述に関しても納得できる部分が多く,例えば,『禮記』との関連については,私も趣味の会の雑誌の中で述べてきたことなので,「同じような考えをもつ人がいるのか」と多少なりとも心強く思った。
祭礼の場としての水辺に関する記述は,屈原の『楚辞』の中のある詩を彷彿とさせる部分があり,とても興味深い。
火山活動と祭祀との関連についてはこれまであまり考えていなかったので,とても勉強になった。
全体としてすんなりと理解できる内容だったし,既に認識・理解していることや趣味の会の雑誌等で私見を披露してきたことと一致する内容の部分が多かったので,かなりの速度で読み終えることができた。
本文中には出典等の記載はないが,巻末に参考文献一覧があるので,更に深く研究する際にはそれを手掛かりとすることができる。
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