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2015年12月24日 (木曜日)

藤田勝久『中国古代国家と社会システム-長江流域出土資料の研究』

下記の書籍を読んだ。

 藤田勝久
 中国古代国家と社会システム-長江流域出土資料の研究
 汲古書院(2009/9/25)
 ISBN-13: 978-4762925849

収録されている資料読解の細部についてまで精読・検討はしなかったのだが,大意はつかめたので概ね全部理解することができた。その中で,船舶を紛失した際の始末書のような文献資料については特に好奇心が刺激された。楊泓・李力『中国古兵二十講』には古代中国の大型軍船についての解説があり,図や発掘写真が多数収録されているのだが,それらを参照しながら読んでみると,様々なことを考えることができる。

それはさておき,本書は,比較的最近発掘された古代中国の行政文書を手掛かりにして,秦や楚の行政情報システムを再構築(推論)するという狙いでまとめられたものだと理解することができる。資料の限界という問題はあるけれども,読む限りにおいてはかなりの程度の説得力をもって論証に成功しているのではないかと思う。「なるほど・・・」と思う部分が多数あった。素晴らしい業績だと思う。

一般に,「行政組織」というものは,権力関係や権力構造を中心に研究されることが多い。しかし,中国の戦国時代以降の大規模な行政組織により広域を支配・統治するという国家的な営みを実現するためには,迅速かつ正確な情報システムが存在しなければならない。そうでなければ「上命下服」も成立し得ない。

現代の中国政府においてさえ,経済目標を達成するための「事実を統計的に把握する」ということが国家行政情報システムの機能不全のためにうまくいっていないと理解することは可能なので,情報伝達のための道具が木簡からインターネットに変わっても基本的な事情に変化はないのだろうと思う。

また,長い歴史の中で度々発生した内乱や反乱等は,そのような情報システムの阻害という要素なしにはちょっと考えにくいのではないかと思う。特定の外戚や宦官等が国家行政・統制上の重要な情報を全て握ってしまうと,皇帝といえども「ただの人」に過ぎない。

そして,「現代の日本の場合はどうか?」と考えると,かなり情けない気持ちになってしまう部分があることは否定しようがない。

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