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2015年12月17日 (木曜日)

韓吉紹校釈『黄帝九鼎神丹経訣校釈』

亜東書店で下記の書籍を購入し,早速読んでみた。極めて面白い。

 韓吉紹校釈
 黄帝九鼎神丹経訣校釈
 中華書局(2015年8月)
 ISBN: 9787101108934

古代の道教の研究者や本草の研究者のみならず,日本の古代史を研究する者には必備ではなかろうか?

この書籍の中には『九轉琉珠神仙九丹經』も収録されている。『九轉琉珠神仙九丹經』の著者は,道教の老師であり,葛氏道と関連しているといわれる太清真人とされている。

道教の三皇經は「天皇」、「地皇」、「人皇」で構成されるといわれ,『古事記』等における,天神,地神等と対応しているように思う。ケンペルの『日本誌』に収録されている江戸時代の刷り物(神社で配布されていたもの)の記載によれば,江戸時代の日本の人々の間においては,「天神八神」とは「尭・舜・禹」から「秦始皇帝」に至る中国の皇帝を指すと考えられていたことを知ることができる。

日本の姓における「真人」の初代は,天武天皇(天渟中原瀛真人天皇)なのだが,「天渟中原瀛」と「太清」とは同義と考えることができるので,「天渟中原瀛真人」は「太清真人」そのものと考えることが可能だ。つまり,「天渟中原瀛真人」との倭風諡号は少しも倭風ではない。倭風諡号がつくられたのは持統天皇のころが最初とするのが通説なのだが,たぶんそうだろうと推定される。それ以前には,倭風諡号が存在しないと考えるべきだ(=そのような名をもつ者は存在しなかった。)。ただし,別の名をもっていた者に対して故事にちなんで倭風諡号が追贈されたと推定されることから,その故事の由来を丁寧に考えることが重要ではないかと思う。

「葛氏」は葛城氏に通ずる。道教を基礎とする部族集団という趣旨なのだろう。

(付記)

古代の葛城氏に属する人物として最も有名なのは葛城襲津彦だ。襲津彦は,朝鮮半島に進出して高句麗と交戦した王と推定する見解が多い。私見では,「襲津彦」は「熊津彦」と同義ではないかと思う。「熊津」は万葉仮名では「久麻那利」と書き「くまなり」と読ませるから,意味的には「くま(熊,球磨,隈)の里」となるのではないかと思う。つまり,「くま」と読む都城が朝鮮半島~遼東半島付近に存在したのだろう。そのような支配・統治の実質があったからこそ,当時の倭王は,「安東将軍」等の称号を欲したのに違いない。

「襲津彦」の時代と推定される時期に対応する記述は,『日本書紀』の応神天皇3年と仁徳天皇41年3月にあり,「紀角宿禰」が当時の実質的な権力者で,「襲津彦」はその有力な武将だったと考えるしかないように思う。

そして,『日本書紀』の記述を前提とする限り,当時の情勢としては,「百済」に対して政治的圧力をかけて王を交代させることもできるまでに倭國が強かったと理解するしかなさそうだ。例えば,阿花王(阿莘王・阿芳王)の例がある。「阿花」は「阿倍」,「阿閉」,「阿保」等に通ずる。「阿莘王」の「莘」は,『隋書』にある「秦王国」に通ずるのだが,その所在地を周防(周芳)と推定すると,「阿芳王」の「芳」に通ずる。また,「阿保」にも通ずる。

「五経博士」に関しては,「百済」から倭國に派遣されていたと解するのが通説なのだが,上記のような国際的な力関係からすると,倭王の命により百済國から派遣されていたと理解するしかないように思う。

「五経博士」は仏教と文字を日本にもたらしたとするのが通説となっている(古代の中国では「五経博士」とは儒教を講ずる者であったはずが,倭國では仏教とされている点が興味深い。)。しかし,そこでいう仏教とは,今日考えられているものとは異なるものだったと推定される。

「五経博士」の名としては,継体天皇の時代の「楊爾」と「漢高安貞」,欽明天皇の時代の「柳貴」と「馬丁安」と「王道良」が知られている(欽明天皇の時代には醫博士、採藥師、藥師も来訪したとされている。)。「漢高安貞」は非常に奇妙な氏名で実名ではない可能性が高い(『抱朴子』に「漢高」が幾つかみえる。)。「楊」と「柳」と「馬」と「王」は,いずれも漢人の可能性が高く,百済から来訪した者ではないと解するほうが妥当と思われる。

また,推定としては,ここでいう「百済」とは国名を指すものではなく,「仏教を奉ずる国」という意味で,おそらく,中国の王朝(北魏など)の中のどれかが該当するのだろうと考えられる。

北魏の医学(薬学)に関する書物には『齊民要術』がある。

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