武樹臣(植田信廣訳)『中国の伝統法文化』
法(灋)の語源について,様々な中国の書籍を読み,標準的な理解を会得することができた。学生に書籍を紹介するにあたり何か良い日本語訳のものはないかと探していたところ,下記の書籍に丁寧に書かれていることがわかった。
武樹臣(植田信廣訳)
中国の伝統法文化
九州大学出版会 (2003/9/20)
ISBN-13: 978-4873787916
「法(灋)」は,「水」+「廌」+「去」で構成されている。
本書の11~34頁には「廌」の標準的な説明がある。ここでは,普通理解されているように,一角の牛,羊または鹿のような動物を想定している。標準的な説明としてはそれで十分ではないかと思う。
しかし,「一角」というのは後世の作り話の一種で,もともとは2本の角の生えている動物を想定していたものと推定される。そのことは,「廌」に相当する金文資料を検討してみると,全て2本の角で構成された動物の姿を示していることから理解することができる。
「廌」は神獣とされるので,神聖性を強調するために1角とするようになってしまったのだろうと想像される。
さて,2本の角のある神獣を検討してみると,やはり,羊頭をもつ神のあたりをぐるぐると廻ってしまうことになるのだが,悪しきを成敗してしまうという説話は別の経路から流れてきたものが混入しているのではないかとも考える。
それは,「ファラリスの雄牛(brazen bull)」だ。
古代ギリシアと古代中国とは,非常に遠いようで密接な関係にあると考えることは奇妙なことではなく,古代の遺物をみればみるほど関連性が疑われるのだ。
それはさておき,本書は,とても読みやすくわかりやすい。
漢文(中文)を解することのできない学生にも勧めることができるので,そうしようと思う。
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