斎野裕彦『富沢遺跡-東北の旧石器野営跡と湿地林環境』
下記の書籍を読んだ。
斎野裕彦
富沢遺跡-東北の旧石器野営跡と湿地林環境
同成社(2015/9/15)
ISBN-13: 978-4886217103
宮城県仙台市にある富沢遺跡の発掘調査結果をわかりやすく丁寧に解説した書籍で,良書と言えると思う。
この遺跡は,現在では,地底の森ミュージアムとして保存されている。
仙台市:地底の森ミュージアム
http://www.city.sendai.jp/kyouiku/chiteinomori/
日本の旧石器時代遺跡に関しては,「神の手」として知られる捏造事件があった。日本の考古学に大打撃を与えた事件だったのだが,現在でもその影響が残っている。本書においてもそのことが触れられており,捏造の有無を意識した丹念な考察が重ねられている。
私の意見によれば,石器については何とも言えないが,野営地跡の痕跡に関しては捏造することが極めて難しいのではないかと思う。
それ以上に興味をひいたのは,過去20000年にわたり蓄積した地層の解析結果を踏まえ,20000年前の地層部分に残された樹木の根の化石や動植物の微細な化石に対する綿密な調査結果が示されていることだ。
研究結果によれば,当時の仙台市周辺の気候は,現在のロシア・ウラジオストクとほぼ同じということだ。かなり寒い。現在の日本の植生に関しては「氷河期の残存物」なる説明がなされていることが少なくないのだが,そのような植物の中にはロシアのウラジオストクでは寒すぎて100%間違いなく死滅してしまうようなタイプのものが数多く含まれているところが笑える。従来の植物学の中には誤謬が蔓延している。
他方,20000年前の地層と縄文時代の地層との間にはぶあつい砂・粘土層がある。北海道の遺跡では恵庭火山の噴火により全面絶滅をもたらした火山灰等により形成されたものであることが判明しているところもあるようなのだが,おそらく,富沢遺跡も同じだろうと思う。要するに,20000年前の植生と現在の植生との間には全面絶滅により断絶がある。当然のことながら,ヒトを含む動物もほぼ全面的に死滅したものと推定される。現時点で存在している北方系の動植物は,日本列島の火山噴火活動が沈静化した後の時代に再度進出してきたものではないかと推定され,最も新しい時代としては,鎌倉時代にあたる小氷期ころに再度進出してきたものではないかと考えられる。この点でも,現在の植物学は根本的な見直しを迫られていると考える。
少なくとも,カンアオイの類は,氷河期の残存物では絶対にあり得ない。古墳時代以降に中国大陸から薬草として人為的に移入されたものと推定され,しかも,その大半は,江戸時代ころに観賞用として交配された人工交配品種を野山に植えて育てていたものの子孫だろうと推定できる。このことは,他の有用植物でも言えることで,遺伝子解析の結果をうまく説明できないものの大半は,そのような人工交配品の子孫だと仮定して考え直してみるとたちまち説明可能になるものばかりだ。それゆえ,日本の環境行政は,行政庁としての存立の可否をわけるような極めて重要な本質的な部分で再検討を迫られていると言えるのだが・・・
本書の感想に戻ると,論述は極めて丁寧かつ誠実で好感をもてる。
日本の旧石器時代に感心のある人だけではなく,日本の動植物学に興味をもつ人にも是非とも一読をお勧めしたい書籍だと考える。
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