水野章二『里山の成立-中世の環境と資源』
下記の書籍を読んだ。
水野章二
里山の成立-中世の環境と資源
吉川弘文館 (2015/10/1)
ISBN-13: 978-4642082846
示唆に富む良書だと言える。
論証は,顕微鏡を用いたものを含め考古学上の客観的な資料や各種文献資料を総合的に用いるもので,古典的な縦割りの「学術」とは相当異なるが,説得力が極めて高い。
私見としては,縦割りでとにかく深く掘り下げ続けるべき学術分野とそうでない学術分野とがあり,それぞれの特性に応じた研究体制の構築とその支援が必要だと理解している。
それはさておき,従来から里山に関する研究は結構多数あるのだが,主として江戸時代以降を前提にしたものが多い。中世の里山に関する研究は比較的少ないと思われ,その意味でも貴重な書籍なのではないかと思う。
本書に収録されている図を見ると,中世というよりは古代における「國」のあり様もこのようなものだったのではないかと想像をめぐらせることのできるものもある。
本書の,第6章(167~188頁)には特に注目して精読した。現在の環境保護行政の問題点を明確に指摘していると思う。私見ともほぼ一致する。無論,法律学または行政学の書籍ではないので,直接的にそのように述べているわけではない。しかし,そこに書かれていることを前提にものごとを順に考えると,結局,単純に柵で囲って人の出入りをしないようにしてしまうような保護策は実は絶滅促進策だということを理解することができる。現時点において「野生動物種」と認識されている動植物の大多数は,実は園芸目的で交配・作出された人工品種の子孫なので人間の手が入らなくなると絶滅する。また,野生の動植物にしても,放置すれば火山活動や大地震等による自然の攪乱が発生するまでは極相化(遷移)が進行し,ごくごく少数の種類の動植物種しか生き残れない。これは生態学の初歩の初歩に属する。人間が人為的かつ積極的に撹乱を起こしているからこそ,多種多様な動植物が里山周辺に存在しているのだ。
更に,本書を読んで,「森林」というものの本質についても考えさせられることが多々あった。更に勉強を重ねたいと思う。
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