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2015年11月 8日 (日曜日)

Zeadally, Sherali, Badra, Mohamad (Eds.) , Privacy in a Digital, Networked World - Technologies, Implications and Solutions

Amazonで予約注文していた下記の書籍が届いたので,早速読んでみた。

 Zeadally, Sherali, Badra, Mohamad (Eds.)
 Privacy in a Digital, Networked World - Technologies, Implications and Solutions
 Springer, 2015
 ISBN-13: 978-3319084695

16本の論文が収められた論文集で,現代のネット上におけるプライバシー問題をカテゴリ別に論じている。内訳をみると,冒頭のイントロダクション及び哲学的な基本問題を扱うSpimelloの論文以外は,いずれも各論的なものとなっている。

Spimelloの論文を読んでみると,学説史の部分については日本の学者が書いた論文のほうができの良いものがある。あまり参考にならなかった。しかし,現代では,哲学的なアプローチがあまり重視されないのかもしれない。ただ,プライバシーを権利としてとらえるのではなく,プライバシーを一種の利益状況としてとらえ,それを確保するためにはどのような権利を考えることかについて主として論じている部分は私見と共通する部分があり興味深かった。

いわゆる情報コントロール権に関しては,一度第三者に奪われてしまったら何もコントロールできないという当たり前のことが述べられている。また,「人格権」の理論との混同・混乱があることも指摘されている。当然すぎるくらい当然のことなのだが,情報コントロール権の理論は,情報を適正に管理する管理者が存在していることを大前提としている。そうでない場合には,この種の主張は全く意味がなく無力だ。その意味で完全に無価値で空虚な理論だと言える(私見によれば,コントロール権の理論は契約法理または擬似契約法理にはなじみやすいが不法行為類型の事案では本質的に無力だと考える。行為請求権の基礎としては,ドイツの連邦データ保護法にみられるように人格権構成のほうが正しい。)。

一般に,裁判所に持ち込まれる事件というものは,侵害され終わった後の後始末をいか処理すべきかというタイプのものが多い。そこでは,コントロール権を主張してみても意味がなく,実質的に損なわれた法益は何なのかを端的に論ずるべきだろう(ただし,先日K判事とたまたまお会いして意見交換した際に全く同一意見だったのでびっくりしたのだが,利益そのものでは訴訟物が出てこないので,訴訟物を構成できるように論理をしっかりと構成するのがプロの仕事というものなのだが,残念ながら,「そこらへんがちょっと・・・」と思うような事例が少なくないように思う。)。

その意味で,最近読んだ設楽隆一ほか編『現代知的財産法-実務と課題-飯村敏明先生退官記念論文集』(発明推進協会,2015)に収録されている中島基至「人格権の体系と展開(ピンク・レディー判決まで)」、谷有恒「パブリシティ権についての考察」はよくまとまっていると思う。学説史的な部分はあまり書かれていないが,その部分は佐々木秀智先生の「パブリシティ権とアメリカ合衆国憲法修正第一条」に書かれているとおりなので,必要ない。むしろ,中島論文及び谷論文で指摘されているとおり,日本国の裁判例の流れの中で「人格権」の概念がいかに大きな意味をもっているかを理解することが大事で,その意味で,これまでの判例の流れを整理し,それがどのような意味をもっているのかを明らかにしている点で,これらの論文が示唆するところは多いと思う。

一般に多数の判例を検討して論理を抽出する帰納法的なアプローチは日本国の法学の世界では必ずしも主流派ではない。何か格好のよい外国の理屈を覚えてきて翻案し,それを演繹したほうが論理の破綻を防ぐという意味では楽ちんだからなのではないかと想像している。しかし,楽して学問をしようと考えた時点で既に敗北者なのではないかと思う。少なくとも自分の頭からオリジナルのものとして生まれてきた理屈ではないので,常に二流以下の地位に甘んずることを絶対に避けることができない。

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