鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報 -「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ』
翔泳社から下記の書籍の寄贈を受けた。たぶん,鈴木正朝先生からの指示によるものだろうと思う。
鈴木正朝・高木浩光・山本一郎
ニッポンの個人情報 -「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ
翔泳社 (2015/2/20)
ISBN-13: 978-4798139760
個人情報をめぐる様々な議論において,本当は何が問題であるのかをわかりやすく座談会の記録という形式で述べた書籍で,読み物としては結構面白い。
外形的には一般向けのように書いてあるけれども,法学のプロはプロなりに楽しめる書籍で,そういうあたりも良い本だと思う。
この書籍を読んだ読後感としては,やはり,「個人情報保護法は行政規範だ」という当たり前の常識をもっと徹底して周知する必要があるということだ。
本来であれば,民法(特に不法行為法)の解釈・運用によって解決されるべきプライバシー侵害の問題が行政法である個人情報保護法によって解決できるとの誤解や錯覚があるから混乱が生ずる。憲法学者の中にもそういう誤解や錯覚をもっている人がいるので,ますますもって混乱が拡大する・・・という酷い状況の下にあることは否定できない。
私自身は,自分の著書や論文等でも書いてきたとおり,基本に戻って不法行為法(Tort)の法解釈論として考えた方が妥当な結論を得られる場合が多いと信じている。また,明治大学の法科大学院ではそのように教えてきた。
その際に最も参考になるのは,やはりプロッサーの類型論で,このような古典的理論構成のほうが実は有用性が高い。
このことは,個人情報保護法の価値を全否定する趣旨ではない。事業者に対する行政監督のための装置として個人情報保護法は重要だし,主務大臣は,今後もきちんと行政監督権を行使してもらいたいものだと思う。しかし,個人情報保護法の適用によっては個人情報の本人の直接的な被害救済にはつながらない。そのような法律ではないのだ。私見としては,欠陥が多いので,全面改正すべきだと思っている。
同様のことはEUの個人データ保護法制でも妥当することで,結局のところ,EUの個人データ保護法制の下においても被害者の救済は民事訴訟によるのが基本となる。データ保護官は,そのような民事救済をサポートするという役割を果たすことになるのだが,民事訴訟において適用される実体法は,やはり不法行為法になる。
以前の記事でも指摘したとおり,日本の法学者が本来やるべきことは,日本国の民法に規定されている不法行為法(特に723条)の解釈・運用でどうにかやれないかどうか可能な全てを努力を尽くすということだと思う。
私がずっと見てきたところでは,民法学者がサボっていたので,結果的に妙なことになってしまったのではないかと思う。
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