David Wright and Reinhard Kreissl (ed.), Surveillance in Europe
Amazonに注文していた下記の書籍が届いたので,ざっと読んだ。まだ精読はしていない。
David Wright and Reinhard Kreissl (ed.)
Surveillance in Europe
Routledge (2014/10)
ISBN-13: 978-0415728997
世間ではスノーデン氏の暴露により米国と英国の諜報機関による監視活動が主に問題視されている。しかし,一般に,諜報機関による監視活動は,欧州の主要な全ての諸国(ドイツ,フランスなど)によっても日常的になされていることだ。ロシアや中国も米国や英国と同等またはそれ以上に諜報活動を常に行っている。このことは世界の常識に属することだ。
理論法学上の問題点は,「このような超監視社会において,プライバシーは成立するのか?」というあたりにある。
この書籍は,欧州における諜報活動や警察活動に伴う監視の問題を具体的に論じ,その問題点を明らかにし,解決策を示唆しようという論文集だ。ざっと読んだ感想としては,解決策として提示されていることの多くがやや形而上学的で有用性にちょっと疑問があるが,それ以外の部分についてはかなりの力作揃いで,とても勉強になる。
この分野に関心をもつ法学研究者にとっては,得るところの少なくない書籍ではないかと思う。
(追記)
新保史生先生は,英国のCCTVによる通行人の監視を素材に幾つかの論文を書かれている。石井夏生利先生も監視の問題を取り扱った論文を公表している。
私見は,レイヤの異なる問題が共存しているので,平時の法理論や法解釈だけで考えても結論が出ないということに尽きる。
そこで問題になることは,理論的には戦時の法と平時の法を分けて考えることができても,現実には同一の物理的空間で同時に発生している事象であり,かつ,諜報活動を行っている者は普通の人間だということにある。
その「人間」という結節点の実存的な問題をどう考えるかによって,法解釈論上の理論は大きく分かれることになるだろう。
俗な表現で言い換えるとすれば,「監視者は仲間を裏切らない」と信ずることができるか,それとも,「監視者もまた弱き人間の一員だ」と考えるか・・・という世界観の相違によって理論構築の基礎が異なってくることになるだろう。
[追記:2015年3月24日]
関連記事を追加する。
Snowden should be allowed a public interest defense, say European lawmakers
ars technica: March 24, 2015
http://arstechnica.com/tech-policy/2015/03/european-lawmakers-say-snowden-should-be-allowed-public-interest-defense/
[このブログ内の関連記事]
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