ハイスコアガール事件
下記の記事が出ている。
「ハイスコアガール」は著作権侵害? 福井健策弁護士は二次創作への影響を懸念
Huffington Post (日本語版): 2014年11月30日
http://www.huffingtonpost.jp/2014/11/27/hiscore-girl-copyright_n_6230434.html
【ハイスコアガール裁判】著作権侵害の証拠、提出せず SNKプレイモア側「1000件の不法行為で時間かかる」
Huffington Post (日本語版):2014年12月2日
http://www.huffingtonpost.jp/2014/12/02/hiscore-girl-judgment_n_6252490.html
コミックそのものを読んでいなかったので何とも判断しようがない状態が続いていた。
ところが,たまたま某氏からお借りすることになり,読んでみた。
率直な感想として,SNKが著作権を有すると主張しているキャラクタそれ自体が過去の別のキャラクタの二次的著作物(模倣または派生品)ではないかと思われるので,SNKが著作権者だとの立証ができるかどうか,かなり難しいのではないかと思った。
著作権者でなければ,もちろんSNKを被害者とする著作権侵害は発生しないし,告訴はできない。
これまでのところ,ネット上でこういう観点からの探索はなされていないように思うのだけれども,きちんと調べればそういうことになるだろうと思う。
ただ,完全な創作なるものはそもそも神様が微笑んでくださった超天才にのみ許されることで,圧倒的多数の非天才は模倣によって二次的な著作物を生成し,飯を食っていくしかない。これが現実だ。
真実としては,真の創作物は滅多に誕生しない。
だから,少なくとも娯楽作品に関する限り,「お互いにあまり堅苦しいことを言わない」というのが世間的には穏当なところだというべきではないかと思う。
一般に,裁判官は,著作権の成立それ自体(=作品の創作性)については意外と無頓着なので,念のために書いておこうと思う。
(追記)
偶然の「写りこみ」ではなく意図的な他者の作品の挿入が常に許されないとすれば,映画でも小説でも回想シーン等の非常に多くの部分が違法とされてしまいかねない。音楽でも基本的には同じだ。
完全無欠の創作物は,滅多に誕生するものではない。
逆に,世界は,圧倒的多数の他者の作品で埋められているので,そのようなものを一切構成要素としない全く新たな作品を創造することは,ごくごく例外的な天才の実験的な作品を除いては,ほとんど不可能なことではないかと思う。
(追記2)
告訴権に関しては,黒澤睦先生の下記の論文が参考になる。
「告訴権の濫用的行使と民事不法行為責任(一)」法律論叢84(6),43-112頁
「告訴権の濫用的行使と民事不法行為責任(二)」法律論叢85(1),53-105頁
「告訴権の濫用的行使と民事不法行為責任(三)」法律論叢85(2=3),91-153頁
「告訴権の濫用的行使と民事不法行為責任(四・完)」法律論叢85(4=5),1-55頁
(追記3)
米国ならばフェアユースの範囲内のものとして対処可能な事案であるかもしれない。
しかし,一部業界団体等の反対により日本国の著作権法にフェアユース条項を追加しようという案は常に圧殺されてきた。
ここにきて,そのような反対論が自らの業界の首を絞める結果を招き得るという事例が提供されたことになるのかもしれない。
ある作品が完全に創作的である確率は非常に低く,何らかのかたちで過去の作品の模倣または派生的要素を含まざるを得ない以上,一定の範囲で社会的に許容するのでなければ,逆に社会的不安定をもたらすことになる。
真実はそうではないのに「自分(だけ)がオリジナルだ!」と思いこみ,世間に向かってそのように大声で主張するといった類の自己過信は,周囲からみていると,とてつもなく愚かにみえることが多々ある。
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