日本の学術はどうして低落したのか
それは,簡単に言えば,ギルドと権威に安住し続けたからだというしかない。
世間には,学術を職業とはしていないが,そんじょそこらの学者よりもはるかに優れた研究者がいくらでも存在する。企業や官庁の中での研究職の者やいわゆるポスドクとして暫定的な立場に甘んじている者だけではなく,いわゆる素人研究者や愛好家さらには趣味家やオタク等と呼ばれる人々が書いた実証的な論考には極めて優れたものが多数ある。
しかし,ギルドと権威はそれを「学術」とは認めない。
だから,「白痴化」する。
白痴化した学術に頼っている限り,国の国家戦略及び企業の知財戦略がまともになりたつはずがない。
方策はいろいろ考えられるが,ギルドや権威とは無関係の論考を国立国会図書館が積極的に収集し,公開することが最も良い。収納場所確保の問題は,デジタル化処理をすることで解決可能だろう。
この関係では,英国アーカイブにおける(本来の意味での)ビッグデータ技術の活用例が非常に参考になる。ビッグデータ技術は,個人のプライバシーを食い物にしてえげつない商売をすることを主たる目的として存在しているものではない。
国立情報学研究所は、権威の総元締めのようなもので,学術の振興のためには逆に深刻な阻害要因となる可能性があるので,全くあてにならない。
同様のことは,現在の図書館情報学にも妥当する。心からの猛省を求める。
(追記)
私は,ギルドと権威を否定するつもりはない。それは自由の範囲内にあるものだろう。
しかし,ギルドと権威に安住することは,堕落と能力の低下を招く。
このことは,古今東西の数えきれないほど多数の事例によって実証可能だが,その顕著な例としては,通例,アイザック・ニュートンがあげられている。自己の権威を守るために最大の精力を注ぎ続ける人生を送った結果,世界の数学の天才達に対する抑圧的な結果を招き,学術としての数学の発展を著しく阻害することとなった。ニュートンの理論は偉大だが,社会人としての行動は最悪の部類に属する。
この例から考えるべきことは,ニュートンの権威とそのギルドを守ろうとすることはニュートンの自由に属するが,ニュートンよりもずっと優れた天才達の学術が広く世間に知られるようにすることはもっと大事なことだということだ。どの理論が正当であるかは,後世の人々の自由な判断に委ねればよい。
当時は,印刷等の関係で物理的な制約があった。しかし,現在はそうではない。
(追記2)
素人が書いたものの中には著作権侵害物が含まれ得る。それは,むしろ公開によって排除可能となるものではないかと考える。
公開されたデジタル情報は,容易にマッチング可能であり,ソフトウェアによる自動的な検出によって剽窃著作のリストを自動生成することが可能だ。その大前提として,公開されていることが重要なのだ。
だから,素人の著作の中に著作権侵害物が含まれている可能性があるという理由で排除する必要はない。ちなみに,大学教授を職業としている者が書いた「立派な論文」の中にも明らかな著作権侵害物が存在する例を多数発見しており,そのようなものは私の論文の中でも引用・参照しないのを原則としている(例外:著作権法に定める規範が確立される以前の時代に書かれた書籍等では,むしろ先人の業績を丸写しにした上で校訂を重ねるのが権威ある学術の基本だったので,今日の観念から良否を判断してはならない。ただし,真に価値ある論考では,著作権法が存在しない時代においても,先人の業績である部分を明記して識別できるようにした上で,末尾に私見や校訂を加えるものとしていた。これは,著作権とは無関係に,先人の業績に対する正しい尊敬の念に基づくもので,法的な評価よりもはるかに重要なことだと考えている。)。
なお,仮に国会図書館が公開を担当する場合,公開者として疑似正犯または幇助犯等の責任を負わないようにするための免責を定める国会図書館法の改正が必要となるだろう。
他方で,素人の著作の中には「駄作」が含まれているかもしれないし,いわゆる「とんでも本」の類も含まれているかもしれない。しかし,これはこれで重要な文化財の一つだ。その内容が正しいかどうかが問題なのではなく,そのようなものが書かれたことそれ自体に歴史的・文化的価値がある。また,現時点では「とんでも」の類に評価されるものであっても,未来においては真の「先見」として高く評価されているかもしれない。
一般に,思考は自由ではなく,惰性と生活習慣によってかなりひどく拘束されている。これは遺伝子が決定している部分が大きく,教育や訓練によって改善できない部分が少なくない。
自由に発想し,自由に思考し,自由に表現できる真の天才は稀にしか存在しない。
| 固定リンク
« 麻薬や武器の違法売買をしているとして,Silk Road 2.0など約400のTorサイトに対して接続遮断措置 | トップページ | 米国:原子力発電所等の重要インフラのシステムがBlackEnergyマルウェアに汚染されていた? »
コメント