« 総務省:「電気通信事業におけるサイバー攻撃への適正な対処の在り方に関する研究会第一次とりまとめ」(案)に関する意見の募集 | トップページ | 三次元プリンタ(3D Printer)はLegoにとって大きな脅威か? »

2014年3月 5日 (水曜日)

ウクライナ:猛烈なサイバー攻撃により通信サービスがほぼ利用不能状態になっているらしい

下記の記事が出ている。

 Ukraine hit by cyberattacks: head of Ukraine security service
 REUTERS: March 4, 2014
 http://www.reuters.com/article/2014/03/04/us-ukraine-crisis-telecoms-idUSBREA230Q920140304

ウクライナへの侵攻を進めるロシア軍による情報戦(サイバー戦)の一部だと推定される。

一般論だが,現代の社会では,行政も立法もほぼ全て情報機器を利用してなされるようになってしまっている。このことから,例えば,中枢的な役割を担うプロバイダに対してサイバー攻撃を加え,機能不全にしてしまうだけで,攻撃相手国の国家機能をほぼ麻痺させてしまうことができる。通信手段を奪われると,政府も議会も効果的に意思決定をすることができなくなるし,軍や警察に対する指揮系統も機能しなくなる。つまり,国を滅ぼすことができる。

対応策としては,インターネット(TCP/IP)に依存した通信網の利用をやめることだ。

しかし,全面禁止は現実的ではない。

そこで,少なくとも,フェイルセーフとして,『となりのトトロ』に出てくるような手回し式発電機のついたアナログ式電話機と普通の銅線のアナログ通信網をちゃんと確保しておく必要があると考える。

無線通信もジャミング技術が非常に高度化しており,一瞬にして国内の無線通信を全て使えなくしてしまうような軍事技術が既に存在している。

こういうことを書くと,必ず「時代錯誤」だとの批判を受ける。

しかし,私は,インターネットが普及しサイバー戦が日常化している現代社会においては,非インターネットの重要性を認識しないことのほうがずっと時代錯誤だと思っている。

農業でもそうなのだが,モノカルチャーは非常に弱い。同種種の作物だけを連作すれば必ず障害が出るし,虫害や病害が深刻化するためにその対策として農薬の使用量が増え,結果的に当該作物を出荷できないくらいひどい状態になってしまう。農業においても,非効率的なように見えても複雑系の思考が最も大事だ。通信の世界は農業の世界と非常によく似ている。このことは,米国の大型農業が事実上既に崩壊しており,遺伝子組換え作物のようなモンスターなしには成立しなくなっていること,過度の農薬・肥料の使用により土壌が土壌ではなくなってしまっていること,そして,機械力による地下水の汲み上げ過剰により水資源が枯渇してしまっていることなどの状況をみれば,誰でもすぐに理解できることなのだが,誰も「自分にとって不利な事実」には眼を向けようとはしない。これは,心理学でいう逃避行動の一種に過ぎないのだが,結果的に,命取りとなる心理現象の1つだ。

法律論については,「サイバー犯罪の研究(五)-サイバーテロ及びサイバー戦に関する比較法的検討-」法律論叢86巻2・3号85頁で既に述べたとおりだ。

|

« 総務省:「電気通信事業におけるサイバー攻撃への適正な対処の在り方に関する研究会第一次とりまとめ」(案)に関する意見の募集 | トップページ | 三次元プリンタ(3D Printer)はLegoにとって大きな脅威か? »

コメント

江藤貴紀さん

よくわからないのですけど,やっぱりどの業界にも利権構造のようなものがあって,特定の政治家と結びついた人だけにお金が流れるようになっていることが様々な不思議な現象の根本原因だろうと思います。

公務員は,特別職である国会議員を含め,例外なく全体の奉仕者なので,自分と仲のよい人々や支持者にだけお金がまわるようにすることは,実は,国家資産の横領罪です。

しかし,こんな単純明快なことについて法学者や政治学者は何も述べてこなかった。それどころか,逆に,そのようにすることが民主主義なのだと嘘を子供たちに教えてきました。

要するに,本当は「自分もおこぼれ頂戴したい」という人材しか存在しなかったということなのでしょう。

文化的には,古代のままの国であり,少しも進歩していません。

ただ,誤解のないように付言しておくと,これは日本に特有の現象ではなく,世界中どこでもそうです。ボスが国民から税を徴収して自分の好きなように分配すること,それが政治の本質です。

解決策としては,人間が統治することをやめればよいのですが,そうなるともっと悲惨なことになるので,結局,必要悪として甘んじて承認するしかないという結論になるわけですよ。

未来において,もし神が降臨すれば,人間が統治する時代は終わりを告げることになるでしょう。


投稿: 夏井高人 | 2014年4月22日 (火曜日) 07時40分

夏井高人さま

ご返信ありがとうございます。
明らかに変なこと、なのに多くの人がとりあげないことというのは本当に存在します。

おそらくご存知ですが、いま国内がサイバー内戦(正確には攻守の側のサーバーが米国と日本にあるので内戦ではないかもしれませんが)状態です。
この報道と
http://www.j-cast.com/2014/04/04201309.html

アドレス欄にあるリンク記事(推論が非常に多くて、問題が大変ある内容なのは承知してますが、初報で証拠収集の壁が多くて、このような推測を多分に含む内容になっています。)のとおり日本のインターネット史上でおそらく最大のスキャンダルです。

だけど、メインストリームのメディアは全く取り上げませんし、各省庁の何らかの動きも全くまだ不明です。文才を備えた英雄までは望まずとも、「治世の能臣」がせめていたらと思うのですが、それすら国家の中枢にはいないようです。

いまのところ、明らかなのは次の点です。
・西村博之氏のサイドが、2ch.netにはげしいクローリングを行なっていて今月たびたびサーバーが落ちている。(本人は「DDoSではない、単なるクローリングだ。それに自分のサイトのデータをバックアップしているだけだ」と言っています。)

・さらに、2ch.netのミミックサイト2ch.scを作って大方の投稿内容(すべてではない模様)を2ch.netから現在もコピーしている。(本人は2ちゃんねるは自分のものであり、投稿された内容の著作権は自分にあると主張。ただし、現在の規約では2ちゃんねるではなくRACEQUEENという現在の管理会社に、著作権をゆだねるという規程になっていて、西村氏は完全に投稿者およびRACEQUEEN社の著作権を侵害している、というのが新・運営陣の立場です)
*知財をやってなくて、大急ぎで書いているのでタームがおかしかったら申し訳ございません。

また、事実かどうかは未確定ですが、旧運営陣によりDNSポイズニングをしかけられたと新運営陣は主張しています。(しかし、まるで手の内を読んだかのように、すぐに対処して解決してます。マジックのように。)

著作権法・サイバー攻撃、どちらの観点から見ても日本で過去最大クラスの事件と思うのですが・・・(そもそも2ちゃんねるで現行の著作権法をいいだすと突っ込みどころが多すぎるのですが、保留しましょう)

それに、(かつては日本、今はおそらく外国)政府の干渉という問題はまだ未解決です。
全うと思われている権利保障のされる統治機構を維持する(あるいは作り出す?)には、リアルポリティクスを無視出来ないようです。まったく面倒ですがメンテナンスコストがかかります。コストをかけても、どれだけ保持することに成功するかは不明ですが。

投稿: 江藤貴紀 | 2014年4月22日 (火曜日) 02時40分

江藤貴紀さん

コメントありがとうございます。

また,独断に満ちた私のつたない雑文を読んでいただいたことに感謝します。

東京生まれの方については同じような感想を持ちます。私も田舎出身ですので。

特に違和感を感じるのは,一番大事なときには都会人は全く役にたたないという当たり前の歴史上の事実を無視していることだと思います。このことは,奈良・平安の昔から現代に至るまで全く変わりありません。

貴族的な生活を送ることにより知性が壊滅してしまうという古今東西の歴史は常に繰り返すわけで,人間のもつ宿命のようなものかもしれません。

魏の曹操は,中国の将軍の中でも傑出した人物で,まさに文武両道,日本の古代文化にも極めて大きな影響を与えた人物だと思っています。しかし,曹操は,都会育ちのぼんぼんではなかったと推定されます。重臣として活用した人々もまた,中国近隣の少数民族出身者だけではなく,西域諸国から遠くは天竺(インド)の学者や僧侶なども重用していたことが知られています。

要するに後代の唐のようなインターナショナルな国家の建設をめざしていたのではないでしょうか。あるいは,漢帝国滅亡に際し,それまでは漢帝国の地方文官としてくすぶっていた優れた人材が曹操の人徳に感銘し,自分の将来を任せてみようと考えて曹操の下に走り,集まったのかもしれません。

曹操がそうであり得たのは,まさに後漢末の戦乱の時代だったからこそのことで,もし全く同じ遺伝子の人間が平安な時代の貴族のぼんぼんとして生まれたとしたら,酒色に溺れるだけの人間で終わってしまったかもしれません。

そういうことについては,コリン・ウィルソンが述べていることにはまさに卓見が多いと思っています。

話題を現代の日本に戻すと,わからない人にはいくら説得し説明しても絶対にわかってもらえないというのが現時点の実感です。それゆえ,意味のない交際はぜんぶやめてしまい,自分だけで思索を深めるという人生を送ることにしました。

そうやっている間に,これまでとは全く別のタイプの友人が少しずつできてきました。日々,そうした新たな友人から教わることが非常に多く,自分の未熟さを痛感する毎日です。

私は,自分だけが特別な例外だとは全く思っていません。単なる凡人の一人です。それゆえ,人一倍勉強を重ねないと秀才達とわたりあうなんてことはできません。ただし,個別の議論では勝ったとしても,いかなる派閥や人脈にも属していないので,結局,社会的には常に敗北してしまうことはわかっています。それゆえ,議論もやめてしまいました。くだらない意見や学説等は無視するだけです。そのようなものについては,論文等でも原則として引用・参照しません。

そういうわけで田舎の偏屈爺になってしまっているわけですが,こういうライフスタイルが私には一番合っているようです(笑)。

投稿: 夏井高人 | 2014年4月12日 (土曜日) 08時15分

夏井高人さま

過去ログから拝見していましたが、「戦時と平時が常に共存する状況」という考え方は、言い得て妙という感想で、個人的にはとてもよく腑に落ちています。

法学部教育に関しての問題点もおっしゃる通りだと思います。私が一瞬だけ足を突っ込んでいた極めて狭い範囲での経験ですが、法曹志望の人間は類型的にほぼ実定法科目ばかりにしか興味がない印象です。同時に開講されている政治学系の科目には、極めて無関心(必修科目が一部あるので、それだけ履修する状態)でした。他の学問分野にはなおさら興味がなく、ほとんど本も読まない場合が多い。

特に、法曹内部でのヒエラルキーが上位とされている判事へ任官したりやいわゆる「四大」に就職した人間にこの傾向が顕著だった気がします。そして愚見ですがおそらく「賢い」人間でなくて「承認欲求」が原動力の人間のほうが学者(のメインストリーム)にも多いため新しい学説へのアレルギーが強いのではないでしょうか。

なお首都圏出身の典型的な「エリート」の人たちは、(おそらくご存知のように)社会人になっても小学校のときの学習塾での模試の成績の話で盛り上がる人が多いです。(私は地方出身なので、今でも感覚的に全く理解できません)

従って彼らは社会的地位の高さに関わらず、それほど知的好奇心はさほどなくて、内輪での細かい勝ち負けを非常に気にする傾向にあり、べつに競争と関係のない範囲では、とくに知的な興味を持たない場合が多いのだろうなと思っています。残念なことですが・・・

投稿: 江藤貴紀 | 2014年4月12日 (土曜日) 06時51分

江藤貴紀さん

コメントありがとうございます。

私は,随分以前から「戦時と平時が常に共存する状況」というとらえかたを提案してきました。ただし,理解できる法学者は稀有のようです。

簡単に言えば,平時では殺人行為は犯罪行為です。しかし,戦時における兵士は殺人を敢行すべき職責があり,殺人を拒めば軍法会議によって処刑されます。要するに,正義の基準が逆転しているんですよ。

物理空間における戦争では,平時と戦時の切り替えが誰から見ても明瞭で,どちらか一方しか存在しません。

しかし,インターネット空間では,常にそれが共存しているんです。

それゆえ,インターネット上で生起する事象については,戦時の法と平時の法を常に同時に考える必要があります。

そのような法的課題の中には,法理論としては正当化事由の問題として理解することが可能なものが多く含まれます。

私は,あくまでも平時の法としての「サイバー犯罪」を検討するという流れの中で一連の論文を書いています。戦時の法ではどうなるかということについては,私の頭の中では既に完全に完成していますが,世間に公表するにはまだ早すぎるので,控えています。国民の認識・理解がそこまでいっていないからです。その遠因としては,現在の法学部における教育システムの問題もあるし,つまみ食い的にしか勉強しようとしない学生の姿勢もあります。

森羅万象について常に猛烈に満遍なく勉強し続ける必要があります。一般国民にそれを求めることは無理ですが,少なくとも人の上にたとうとする者は,そうあるべきだと信じています。

ただし,現実は逆ですが・・・


投稿: 夏井高人 | 2014年3月29日 (土曜日) 07時04分

夏井高人教授

論文のほうご紹介ありがとうございます。昨日、面白く拝読しました。

リンク先、ベテラン職業外交官の国際法実務家(と言っていいはず)にも見解をうかがいましたが「サイバーアタックが武力行使かどうかは、自分にはよくわからん。戦争法を私が勉強したのは30年も前だからな。インターネットなんて昔は無かったもん」というお答えでした。

実際にフレームの方が全く現実に追いついてないのだと私も思います。

ウクライナの書記官さんが a method of war と、(復仇する権利があるとかなんとか言わずに)質問への答えになってない答えをされたのも、ポジショントークをしたいとか言質を取られるのを回避したなどというより、既存の規範へ当てはめのしようがなかったんだという気がします。

論文で挙げておられた立法例のように、国内法で刑法犯として規程して規存の手続き法の枠内で処理する仕組みづくりはもちろん出来る・・・ただ国家が絡む場合の実効性はそれのみでは担保できないのが現実で、かつ仮に実効的に何かの解決しようとすれば「対テロ戦争」で司法省の法律家がそうしたように、実力によるspecial renditionを正当化して無理やり裁くか、刑事手続きを全面的に省略して法を執行するなどするしかないんでしょう。

当然に、それに対しては、国家主体に限られない別の勢力も、可能であれば同様の行為を行い、その正当化論理の下に裁判や執行をするのでしょうけど。

投稿: 江藤貴紀 | 2014年3月29日 (土曜日) 06時49分

江藤貴紀さん

コメントありがとうございます。

サイバー戦及びサイバー兵器の定義にはなかなか難しい面があり,また,当事国の主観的意図や広報内容等と異なっていることもあります。政治ですので,嘘なくしては絶対に成立せず,嘘が存在・成立の基本原則です(誰も嘘を信じなくなったときに当該政治体制が崩壊します。)。

そのため,政府と関連のある政治学者も常に嘘を言います。それが政治学というものの本質です。自国または他国の政府と一切関係のない政治学者は存在しますが,異端視されるのが普通です。政治学がそのようなものである以上,「戦争」の定義にもこれまた嘘が当然に混じることになります。立場によっても異なり,特定の戦争しか意識しないか,およそ戦争という行為の要素解析をして抽象モデルを構築できるだけの高度な頭脳を持ち合わせているかどうかによっても,戦争の定義が大きく左右されます。

そういうわけで,普通の新聞や雑誌などで書いてあるようにわかりやすく説明することは簡単なことではないです。新聞や雑誌では,書き手が「戦争だ」と理解している概念モデルを基本にしてものごとを考えますが,その正当性の検証が行われることはまずありません。だから,お互いに言いっぱなしになっておしまいになるのが普通です。

このようなことを理解すると,戦争関係のことを書くことには常に躊躇することになります。自分自身も神ではなく極めて不完全で不十分な頭脳しかない一人の人間に過ぎないからです。

ですが,法律家としてはどう考えることができるかということで,「サイバー犯罪の研究(五)-サイバーテロ及びサイバー戦に関する比較法的検討-」を昨年書いて公開しました。読んでみてください。掲載誌(法律論叢)は,残部があれば,法学部事務室で購入することができると思います。

投稿: 夏井高人 | 2014年3月19日 (水曜日) 07時55分

ロシアにも被害が出ているようなので、ウクライナ側もそれなりの能力を持ってるようです。(「世界有数」かどうかはわかりませんが)

なおサイバーアタックは「武力の行使」に当たるのかと質問したところ同大使館のユーリ・一等書記官からの返信は a method of war だという表現でした。

投稿: 江藤貴紀 | 2014年3月19日 (水曜日) 00時18分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 総務省:「電気通信事業におけるサイバー攻撃への適正な対処の在り方に関する研究会第一次とりまとめ」(案)に関する意見の募集 | トップページ | 三次元プリンタ(3D Printer)はLegoにとって大きな脅威か? »