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2013年9月 4日 (水曜日)

筋違いの議論

下記の記事が出ている。

 汚染水 自民から菅政権批判
 産経ニュース: 2013.9.3
 http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130903/stt13090321560005-n1.htm

この記事の中では,福島第一原発の汚染水対策として,「原子力損害賠償責任法に基づき東電の責任を免責し,国の責任でやるべきだ」との趣旨の意見が示されている。

法学について全く無知な人々の意見だと評するしかない。

原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号)は,原発事故などが生じた場合に,原子力発電事業者や保険契約だけでは負担しきれないほどの巨大な損害賠償責任が生じた場合に,国が事業者のために支援をすることは定めているが,それはあくまでも損害賠償金の支払のための支援なのであって,破壊された原発施設等の復旧工事等に関する事項を一切含まない。つまり,この法律に基づいて汚染水対策をすることはできず,国が行う汚染水対策施策の根拠法律とはなり得ない。

そもそも,基本法律である原子力基本法(昭和30年法律第186号)は,原子力発電は民間事業者が行うものとした上で,国は原子力発電事業者を行政監督するだけだという基本構造を定めている。したがって,規模の大小を問わず,原発に何らかの事故が発生した場合,国は行政監督権の行使として当該原発事業者に対して復旧を命ずることはできる。しかし,この基本法は,国が自ら復旧行為をするような事態は全く想定していないということができる。

なお,原子力防災会議令(平成24年政令第234号)に基づき内閣総理大臣が定める緊急措置として国が直接に汚染水対策をすることもできない。なぜなら,原子力防災会議令は原子力基本法に基づいて制定された政令なので,原子力基本法に定める国の権限を超える権限を国に授権することができないからだ。

つまり,日本国の法令体系においては,原発事故について,国が直接に対応するための根拠となる法令は存在しないので,国は,何もできない。仮に予算措置を講じたとしても,その予算を執行するための根拠となる行政法規が存在しないのだ。したがって,法令の根拠なしに予算だけ成立させて執行した場合,(政治学的にはともかくとして,法理論的には)その予算の執行は全て違法・無効となる。

ちなみに,激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和37年法律第150号)は適用可能な法令であるけれども,この法令に基づき国ができることは金銭的な支援であり,実際の復旧作業等の計画・実施は関係する地方自治体が行うものとされているし,国は地方自治体に対して直接に指揮・命令する権限を有しないから,国が直接に汚染水対策をするための根拠法律とはならない。

強いて言えば,自衛隊法(昭和29年法律第165号)83条(災害派遣)は根拠法律となり得る。

新たな立法をしないで緊急対応をすべき場合,自衛隊の中に原発事故対策部局を設置し,そこが司令塔となって実際に工事等を施工する事業者等との交渉・対応・発注を行えばよい。つまり,自衛隊の災害派遣活動を民間事業者にアウトソースするというかたちをとることを考えればよろしい。この場合,復旧計画の実質的内容は,国の安全保障会議が決定するものとし,その決定内容に基づいて自衛隊に対し,災害派遣として原発の汚染対策を命じ,専門知識や技能を要しない業務については自衛隊自らが災害派遣として業務遂行し,専門知識や技能を要する業務については民間事業者にアウトソースするということになる。また,災害派遣業務を遂行するために特殊な専門知識等を要する場合には,必要な人材を,臨時に自衛隊に出向させ,自衛隊員としての身分で行動できるようにすれば足りることだ。

このような災害派遣は,東電の損害賠償責任とは一切関係なく遂行することができる。

以上のように解釈することができる。

だから,上記の議論は筋違いなのだ。

日本国は,どこかのよくわからない国とは違い,「法治国家である」と胸をはって威張れるようであってほしい。

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