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2013年2月 5日 (火曜日)

フランス:「主権あるクラウド(sovereign cloud)」をめぐる動き-現実には設計・実装ができない

下記の記事が出ている。

 Cloud firms demand right to use French government's €285m 'sovereign cloud'
 ZDNet: February 5, 2013
 http://www.zdnet.com/cloud-firms-demand-right-to-use-french-governments-285m-sovereign-cloud-7000010812/

米国等のフランス以外の国の企業等が保有する特許の影響を受けないで構築・運用されるクラウドでなければフランスの国家主権が侵害されることになる・・・というのがサルコジ前大統領の考え方(クラウドにおけるデータ主権)だった。

しかし,このブログでも既に紹介しているとおり,クラウドの骨格となる特許は古いIBMの仮想計算機関連特許によってカバーされるものが大半であり(←つまり,既に権利保護期間が経過して失効したものを含め,IBMが保有していた様々な特許の焼き直しに過ぎないものが非常に多い。),また,新しい技術の大半が米国特許によってカバーされている。つまり,「クラウド」であろうとする限り,独自性など最初からあり得ない。

クラウドではない次世代の全く新しい技術を構築するのでない限り,この問題から逃れることはできないだろう。しかし,そのためには何十年かに及ぶ基礎実験と実装・稼動によるテストの蓄積が必要だ。すぐにできるものではない。

というわけで,ライセンスの代価は支払うべきだという結論になるしかない。

そもそも,特許権の所在とデータ主権とは関係のないことなので,わけて考えるべきだ。もし代価を支払うのが嫌なのであれば,クラウドを使わなければ良い。他にいくらでもデータ処理の方法はある。

なお,あくまでも一般論だが,ある標準的な技術が独占化または寡占化という状態を発生させた場合の法的対処についても,既に『ネットワーク社会の文化と法』(日本評論社,1997)の中で提案済みだ。

[このブログ内の関連記事]

 EU:米国の法令に基づくクラウドコンピュータ内のデータ処理に対する監視が実施されると,欧州の主権が失われることになるとの批判
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/eu-5dc7.html

 クラウドコンピューティングにおけるデータ主権
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/post-892d.html

 グローバルなクラウドコンピューティングとローカルな国家主権をめぐる議論
 http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-38ba.html

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