コミュニケーションツール利用者の不法行為責任
ある学生から質問があったので,私なりに説明し,その学生は納得したようだった。
要点はこうだ。
コミュニケーションツール(X)を利用すると,利用者のスマートフォン内にあるアドレス帳のデータが自動的に吸い取られ,Xの利用者間で自動的にシェアされる仕組みになっていると仮定する。
このような場合において,Xの利用者Aが非利用者Bのメールアドレス等の情報を自動的に吸い取られ,Bの個人データがXの利用者間でシェアされる状態になった結果,Xの利用者でありかつBをつけねらっていたストーカーCがBの詳細情報を知ることとなり,Bに対するストーカー行為をますます加熱させた。そして,CがBを暴行することとなった・・・というような事態が発生したとする。
この場合,Xについて,そのような仕様のサービスを提供していることそれ自体から「未必の故意」による不法行為に基づく損害賠償責任が発生することはどの法律家が考えても明らかであるが,Aについても過失による不法行為責任が生ずるかどうかが問題となり得る。
私の見解では,当然のことながら,Aも不法行為責任を負う。
Bが被った物的・精神的損害の全額について,XもAも共に損害賠償責任を負うのは当然のことだと思う。
Aの収入が乏しければ,一生かけて償い続けなければならない。損害賠償債務については,(電話帳の情報をシェアすることについて明確な認識・認容がある以上,少なくとも未必の故意は当然に認定可能であり,故意または重過失がある場合に該当すると考えられることから)破産免責の対象とならないので,破産しても駄目だ。
だから,このようなコミュニケーションツールを使っていはいけないのだ。
なお,一般に,このような場合について,(Aは個人情報取扱事業者ではないのが普通なので)Aについて個人情報保護法違反の問題が生ずることはない。しかし,Xについては,約款やプライバシーポリシーにどのようなことが書いてあろうとも,Bとの関係では明らかに個人情報取扱事業者の義務に違反するサービスを提供していることになる。また,Aについては,個人情報保護法上の義務違反とは全く無関係に不法行為責任が生ずることは言うまでもない。
簡単に言えば,このようなツールを使うということだけで,不法行為責任(民法709条)が成立し得ることになる。
*************************************
(余談)
もし無知や軽率のためにこのようなコミュニケーションツールの利用者になってしまった者は,上記の例でのCによるBに対する暴行等の被害の発生を避けるための結果回避義務を負っていることになる。
具体的には,このようにすべきだろう。
1:利用者によってシェアされてしまった電話帳データ等を完全に消滅させることは,どうやっても不可能だということを正しく理解する。
2:自分が愚かな人間であることを自覚する。
3:自分が潜在的な加害者であり,そうならないようにするためには将来の被害発生を防止すべき義務(結果回避義務)があることを認識する。
4:当該サービスの利用をやめる。
5:当該サービス(上記の例ではX)にクレームを入れ,全てのデータを消去するように求める。消去できないと回答されることは100パーセント確実だが,それでも消去を求めたという事実を残しておかないと将来において結果回避義務を尽くしたという証拠が残らないことになるので,とにかく消去を求める。対応の繁忙により当該サービスが業務遂行不能になったり,担当者が自殺したりしても,それは当該サービスの自業自得というものなので(←もともと第三者の個人データを違法に収集して拡散するという不法行為を目的とし,かつ,それを必須の構成要素として成立しているサービスであり,その結果としてストーカー被害その他の危険な事態の発生が生じ得ることを当然の前提としているビジネスなので,適法性がない。),消去要求が脅迫や強要等にわたるものではない正当なものである限り,利用者がクレームをいれる行為それ自体が不法行為となることはない。
6:迂闊にも当該サービスにメールアドレス等を提供してしまった関係者(上記の例ではB)に対し,個別に詫びを入れ,メールアドレス等の変更を依頼する。その結果,当該利用者(上記の例ではA)とBとの関係が険悪になり,絶交になったとしても,それはAの愚かさと軽率さが招いたことなので,自業自得と思って諦める。
7:消費者庁に対し,業務停止を含めXに対して厳しい監督・処分をするよう,強く申し入れる。
これくらいのことをしておけば,上記の例のAとしては,一応結果回避義務を尽くしたことになるだろう。
| 固定リンク
コメント