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2012年11月 9日 (金曜日)

日本の出版業界はまだわかっていない

下記の記事が出ている。

 電子書籍端末「Lideo」、12月発売 8480円
 AFP BB: 2012年11月08
 http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/it/2911151/9798642

私は,この電子書籍端末について評論する気はない。

Amazonでも何でもそうなのだが,電子書籍端末という装置は,電子化された流通システムの一種であり,顧客を囲い込むための非常に重要な装置であることは何ら変わりがない。

そのような装置を構築・運用することで顧客を囲い込むことは可能だ。

しかし,装置を開発できたというだけでは,出版社の間でまったく優劣がつかない。

それは,どの装置も同等に囲い込みのための装置だからだ。

勝敗は別の要素によって決せられる。

それは,「印税率」だ。

あとは何も書かなくても良いだろう。

日本の出版社が電子書籍の分野で生き残りたいと考えるのであれば,自己の存在について完全に自己否定をすることからはじめる必要がある。

出版社が書籍を生産しているのではない。

コンテンツは著者のものであり,出版社は,それを流通させている流通業者の一つに過ぎない。

そのような社会構造の歴史的な大転換が既になされてしまっているということに気づかない限り,日本の出版社に未来はない。

これまでのような「本をつくる」というビジネスモデルを維持できるのは,非常に限られた特殊分野を扱う出版社の中でも本当に「本をつくる」という仕事をしてきたところだけだろうと考えている。

電子出版は,すでに「本」ではない。

コンテンツの一形態に過ぎないということを正しく認識する必要がある。

そして,コンテンツは,出版社でなくても誰でも流通させることができる。

真の生産者である著者は,そのようなあまたある流通経路の中から,自分にとって最も利益率の高いところを選ぶことができる。

出版社だけが印刷・製本・流通の機能を独占できる時代は,とっくの昔に終わってしまっている。

[追記:2012年11月17日]

関連記事を追加する。

 キンドルが売れないこれだけの理由
 東洋経済オンライン:2012年11月14日
 http://toyokeizai.net/articles/-/11724

私も同感だ。

どの企業の製品にしろ,電子書籍端末は売れないだろうと思う。

いずれ電子書籍アプリの時代がやってくる。

極めて大きな状況の変化が劇的に生ずることだろう。

アプリが安定するようになったら,私は電子書籍による出版実験を重ねてみたいと思っている。

自分でもいろいろと工夫してやってみたが,時間が足りなすぎる。人を雇えば人件費というコストが発生してしまう。結局,出版クラウドに公衆送信依託をしてしまうのが一番てっとり早い。もとの原稿の権利さえ手放さなければ,当該クラウドサーバが攻撃によって破壊されてしまったり,破産して消滅してしまったりしても,権利を維持することができる。要するに,コンテンツの作成までクラウドに委ねてしまわないというところがポイントだ。あくまでも流通と決済のための技術的手段に過ぎない。

日本の出版社も,流通と決済のための手段に過ぎないという自覚を明確にもつことができれば,少なくとも社名と社長だけは生き残ることができる。

そうでなければ,すでに書いたとおり,紙の書籍でなければ実現できないことは何かをよく考えた上で,「本をつくる」という原点に立ち戻ることだ。

バブル期の営利至上主義が日本の出版界を汚染してしまったその影響が今でも残っていると観ることもできる。もしそうであるとするならば,徹底的に除染をしなければならない。

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