高須直子氏の講演「iPS細胞技術の実用化と知的財産」
もう21日になってしまったので昨日のことになるが,ある研究会で,京都大学iPS細胞研究所(CiRA)知財契約管理室長高須直子氏の「iPS細胞技術の実用化と知的財産」と題する講演を拝聴した。
とても勉強になった。
特許管理に関して非常に興味深い話題がふんだんにあったほか,そもそも大学の研究成果について特許を取得することの社会的意義のような問題についても意見交換があり,とても参考になった。
私自身は,特許もさることながら,iPS細胞の応用による医療実践の有用性予測のようなことのほうに興味があり,ちょっと疑問に思ったことについて質問をしたりした。
ヒトの遺伝子が解析されても,あるコンプレックスとしてのヒトの集団の特性のようなものの研究が進んでいるわけではない。そのような研究を進めると,当然のことながら,様々な社会的問題も派生的に生じてくることになる。
そんなこともあって,私は,ヒトの遺伝子を研究素材とすることを断念し,植物を素材として研究することにしたのだが,とにかく自分でやれるだけことを徹底してやってきたことはよかったと実感した。遺伝子の問題に関する限り,植物と動物とで共通の問題がかなりたくさんあり,そのような問題については,植物の遺伝子のことしか知らなくてもどうにか食いついていくことができる。もちろん,動物(特にヒト)に固有の問題についてはよくわからないことが多い。
もっと勉強したいのだけれど,人生に残されている時間を考えると,あまり欲張ることもできない。
とにかく難しい・・・
さて,高須氏と直接お会いするのは初めてだったのだが,テレビ報道や雑誌記事等を通じてその存在は知っていた。大変な仕事だろうと想像していた。そのとおりだった。山中先生は,よい人材と出会えたと思う。知財の関係をしっかりと考えて処理してくれる人材がいればこそ,山中先生の本来の研究に集中できるというものだ。
有能な研究者には,そのような幸運というものが必要だと思う。
私自身としては,iPS細胞の医学・薬学分野の応用には十分期待できる部分が多いと思っている。ただ,特許など知的財産権としての保護の問題や医療法上の問題だけではなく,ヒトの組織を用いることそれ自体からくる様々な法的課題があることは事実なので,感情論に走ることなく,冷静かつ十分な議論が尽くされるべきだろうと思っている。
そして,政治的な問題というものにも留意すべきだと思っている。
研究者自身は全く望んでおらず予想もしてないことであっても,政治の中にとりこまれてしまうと,とんでもない未来がやってくることがある。
これは,研究者のレベルでどうこうできる問題ではない。
だからこそ,社会全体が正しく事実を認識・理解した上で,やってよいこととやっていけないこととの分別をもたなければいけないのだろうと思う。
同じことは,このブログの基本テーマであるサイバー法の分野でも多々ある。
技術的に可能なことはどんなことでもどのような目的のためにでも利用・応用してよいというわけではない。
正しい分別と自制が必要な場合もあるのだ。
いろんなことを考えながら帰宅した。
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