Samsung敗北に関するGoogleの態度
下記の記事が出ている。
Google reacts to Apple's US patent victory over Samsung
BBC: 27 August, 2012
http://www.bbc.com/news/technology-19389732
簡単に言えば,米国特許商標庁(ISPTO)がAppleの特許の見直しをしているから,Androidの特許に影響は及ばないというものだ。
ちょっとおかしい。
Androidの特許の見直しもされているからだ。そして,Androidの特許について無効だと主張(または,Androidが特許侵害をしていると主張)しているのはAppleだけではない。
関係企業が入り乱れて乱闘をしている間に,いつの間にかGoogle包囲網ができあがってしまっていたとみるのが一番素直かもしれない。
[追記:2012年8月28日]
関連記事を追加する。
Google identifies commentators in Oracle case
BBC: 27 August, 2012
http://www.bbc.com/news/technology-19391232
さすがGoogleだ。何をすべきかに気づくのがとても速い。Twitterなどのコミュニケーションツールでは意味がない。情報を集めるだけでも意味がない。R&Dの環境では,少しでも多くの情報を集め,その情報に基づいて迅速・的確に判断を下すことができる専門家による解説を,適時に無償で公開することが重要なのだ。そして,有能な専門家を先に囲い込んだほうが相対的に有利になる。少なくともライバル企業は,その専門家を使うことができなくなってしまい相対的に能力の劣る別の誰かを雇うしかなくなることになる。そのための支出が企業を防御することになる。
ただし,Googleがこのように判断したのには理由がある。実は,Oracleに先手を打たれてしまっているのだ。
Oracle confirms paying a blogger but Google names no-one
BBC: 17 August, 2012
http://www.bbc.com/news/technology-19303290
このようなやり方は,ずとt古い時代からあった。ただし,古典的なやり方では,新聞社やテレビ局などにお金をだし,新聞社を媒体として有利な情報提供をするというやり方が採られた。新聞やテレビ局が有効な媒体であり得た時代はそうだった。しかし,記録を継続的に提供し続けることができるという意味でブログは新聞やテレビよりもはるかに優れている。また,新聞社やテレビ局による中間搾取がないので,個々のブロガーと個別契約をしたほうがずっと安上がりになる。要するに,私が『ネットワーク社会の文化と法』(1997)で述べたように,ネットワーク環境では,流通における「中抜き現象」が発生する。その中抜き現象は,情報という商品の流通においても同じように発生する。情報媒体という意味での「メディア」企業が存立するための経済的基盤が(古典的なやり方だけを前提とする限り)どんどん失われていくことになる。新聞社が生き残るためには,組織それ自体のあり方を考え直さなければならないだろう。欧米の新聞社が個々のブロガーと契約し,ブロガーが新聞サイトというプラットフォーム上で自己の名で記事を公表するというスタイルをとっているのは,そこらへんを意識したものだ。独立のブロガーである必要があり,新聞社の従業員という立場にある者では,必ず上司(編集者)や新聞社のスポンサー企業等に迎合してしまうので,駄目なのだ。
おそらく,日本の新聞社が同じようなことをやろうとすると,「外注」や「下請」の一種だと思い込み,非常に安い報酬額で,しかも書くべき内容まで指示してこき使おうとするだろう。だから,日本の新聞社は駄目なのだ。このままでは消滅するしかない。新聞社の消滅を食い止めるためには,企業としてのあり方それ自体を根本的に考え直さなければならないだろう。自分達が「偉い」と思うだけで,あるいは,自分達が「支配者」だと誤解し続けるだけで,それだけで「おしまい」という運命から逃れることができなくなる。
さて,一般に,知識社会では,上層と下層とが極端に階層分化する。フラットな社会へ向いたベクトルはない(←私は『ネットワーク社会の文化と法』を発行した1997年以来ずっと,「鍋のフタ」構造として説明してきた。上層部は鍋のつまみ部分に相当するほんの一握りになる。大多数はフラットなフタ本体部分となる。つまり,全体としてフラットなのではなく,ごく少数の上層部と圧倒的多数の下層部に分かれるという考え方をもっている。)。
美味しい料理を食べることができても,それが何らかの意味で快感をもたらすものでなければ誰もその料理を食べようとはしない。美味しい料理があってもそれを食べることのできない者には無意味だ。立派な食材があってもそれを素敵な料理に仕立てるセンスと技能を有する料理人がいなければ無意味だ。広大な畑と豊富な水資源があっても,そこで野菜を育てる農業者がいなければ食材を得ることはできない。無限に広いような土地があっても,水も土もない乾いた砂漠地帯では,普通の農業を営むことはできない。
[追記:2012年8月29日]
関連記事を追加する。
Samsung Case Puts Apple Closer to Google Fight
New York Times: August 27, 2012
http://www.nytimes.com/2012/08/28/technology/samsung-case-puts-apple-closer-to-fight-with-google.html
[追記:2012年9月2日]
関連記事を追加する。
Google and Apple's chiefs may be ready to talk patent peace, sources say
Guardian: 30 August, 2012
http://www.guardian.co.uk/technology/2012/aug/30/apple-google-discussions-android
[このブログ内の関連記事]
Samsung敗退後の世界
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/samsung-b7cc.html
米国:SamsungがAppleの特許権を侵害しているとして超巨額の損害賠償金の支払を命ずる陪審評決-Samsungの完敗
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/samsungapple-50.html
米国:SamsungのスマートフォンGalaxy NexusがAppleの特許を侵害しているとの判決-販売禁止
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/samsunggalaxy-n.html
ドイツ:Galaxy Tabをめぐる紛争で,デュッセルドルフの控訴裁判所が,Samsung一部勝訴及びApple一部勝訴の判決
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/galaxy-tabsamsu.html
ドイツ:スマートフォンの特許をめぐるSamsungとApple間の訴訟についてマンハイムの裁判所がSamsung敗訴の判決
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/samsungapplesam.html
EU:Galaxy TabをめぐるApple対Samsungの特許訴訟で,ハーグ地裁は,Appleの主張する特許中の1つについて特許侵害を認定する判決
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/galaxy-tabapple.html
韓国:SamsungのGalaxyとAppleのiPhoneとが相互に相手の特許を侵害し合っているとして,どちらについても韓国内での販売を禁止し及び損害賠償の支払を命ずる判決
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/samsunggalaxyap.html
モバイルをめぐる特許紛争は,野獣の生存競争のようなもの?
http://cyberlaw.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-8581.html
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