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2011年9月 1日 (木曜日)

いわゆるカレログなる位置情報取得アプリを相手方の同意なく利用する行為は犯罪行為になるか?

カレログなるアプリがあるようだ。

 彼氏の浮気割り出せるアプリが話題 使い方次第でトラブルの危険性
 JCASTニュース: 2011/8/31
 http://www.j-cast.com/2011/08/31105892.html

このアプリがなくても,同じような結果を得る方法は存在している。

特に,電気通信事業者内に共犯者が存在する場合には簡単に実行できてしまう。私の場合,そのようにして位置情報が第三者に提供されていると確信するに足りる証拠がある(例:通信会社しか知らないはずの携帯電話の所在位置を,なぜか通信会社とは無関係の某氏が知っていたというような場合など)。だから,全ての通信会社について,電気通信事業法を全く遵守しない企業である可能性があるという前提で常に判断・行動している。同様のことはクレジットカードについても言える(例:クレジットカード会社しか知らないはずのカード利用場所の位置情報等を,なぜかクレジットカード会社とは無関係の某氏が知っていたというような場合など)。この場合も,同様に,クレジットカード会社について,個人情報保護法に違反している企業であるという前提で常に判断・行動している。私は,そのような事実について,小型デジタルボイスレコーダを用いた録音等により全ての証拠を確保してある。

さて,カレログだが,相手方(A)の同意なく利用した場合,当該相手方(A)と通信会社(P)間のGPS信号に関するやりとりを第三者(X)が傍受する行為に該当する場合がある。このやりとりは,相手方(A)と通信会社(P)との間の通信であるので,当該傍受者(X)との関係では,「他人間の通信」に該当する。したがって,このような場合,電気通信事業法に定める通信の秘密を侵害する罪に該当することがあり得る。

電気通信事業法第179条
1 電気通信事業者の取扱中に係る通信(第164条第2項に規定する通信を含む。)の秘密を侵した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
2 電気通信事業に従事する者が前項の行為をしたときは,3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。

なお,このようなアプリを提供する企業等は,仮に「相手方の同意を得てから利用してください」と指示していたとしても,サービス提供の形態等からして,相手方の同意なく利用される可能性が高いと合理的に推定できる場合には,未必の故意による教唆犯として,当然,処罰されるべきことになるだろう。要するに,サービス提供をしてはならない。

他方,電気通信事業法の定める通信の秘密とは関係なく,「位置情報」がプライバシーの一部であることは,公序の一部となっていると考えられる。そのことは,EU電気通信プライバシー保護指令で定められ,米国商務省でも保護の方向に動いていることなどからも理解することができる。したがって,罰則の適用とは無関係に,プライバシー侵害として,民法709条に基づく損害賠償請求の原因となり得ることも当然のことだ。この場合,そのようなアプリを提供する企業等は,(故意の場合でも過失の場合でも)共同不法行為者として,連帯して損害賠償責任を負うことになる。

[追記:2011年9月1日13:02]

ある人から,「AP間の通信の傍受に該当しない場合には無罪か?」との質問を受けた。

この質問の趣旨は,AP間で何らのやりとりもなされず,Aのスマートフォン上だけでGPSデータが取得可能であり,それをXに自動転送することができるような機能を有するアプリを想定するものと考えられる(Aのスマートフォンが完全なシンクライアントマシンであり,実際にはPのパブリッククラウド上のアプリケーションサービスのみが存在している場合,または,Aのスマートフォンがシンクライアントマシンでなくても,アプリが実際にはクラウド上に存在しており,クラウド上のサービスとしてGPS情報の取得等が実行される場合には,常にAP間の通信が存在することになるので,そのような場合は上記のとおりAP間の通信の秘密に対する侵害罪が成立することとなる。)。

たしかに,「他人間の通信」が存在しないとすれば,電気通信法違反の罪(通信の秘密を侵害する罪)は,成立しない。

しかし,私見としては,それがAの同意なくなされるものである限り,AP間の通信の傍受に該当する場合でも該当しない場合でも,そのアプリを利用してGPS情報を取得しXにデータ転送するためにはAのスマートフォン等上でアプリを起動し何アンペアかの電気を消費しなければならないはずなので,電気窃盗罪(刑法245条,235条)が成立するものと考えている。したがって,賛否両論あり得ると思われるが,このような場合に電気窃盗罪が成立するという立場にたてば,刑法によって処罰されることがあり得ることになる。

また,当該スマートフォンにパスワード等が設定されている場合,Aが正規のパスワードを入力して当該スマートフォンを利用している間にXに対するデータ転送等がバックグラウンドで実行されるものと考えられるが,その場合には,Aを道具とする間接正犯として不正アクセス行為がなされたものと解する余地がある。他方,パスワードがかかった状態で,セキュリティホールやその他の隠れた機能等を利用してXに対する通信がなされる場合には,普通の不正アクセス行為となる。したがって,これらの行為に該当する場合には,不正アクセス罪として処罰されることがあり得る。スマートフォン等にパスワードが設定されていない場合には,もちろん不正アクセス罪は成立しない。

加えて,事案にもよるが,Aの位置情報の取得がAに対する「つきまとい行為」に該当する場合には,ストーカー行為規正法(13条1項)違反の罪で処罰されることになる。

更に,極めて限定的で例外的な場合となると思われるが,もし位置情報が「営業秘密」に該当するような場合には,理論的には,不正競争防止法(21条1項1号)違反の罪が成立することがあり得るのではないかと思われる。

以上のように,AP間の通信が存在しない場合においても犯罪が成立することがあり得ることになる。これらの問題は,スパイウェア一般の問題に関する法解釈論の応用として考えることができる。

ちなみに,このようなスパイアプリのインストールを求めるようなタイプの女性と末永くお付き合いをすることは無理だろうと思うし,人生においてマイナス面が多すぎるだろうと思うので,もし私がそのように求められたとしたら,求められた時点でさっさとお別れするだろうと思う。

[追記:2011年9月1日13:59]

ある人から,追加的に,「アプリを提供する企業がウイルス罪で処罰されることはないのか?」との質問を受けた。

この記事は,Aから同意を得ることなくアプリをひそかにインストールしたXの刑事責任について書いたものなので,そのアプリを提供した企業(Y)の刑事責任については,電気通信事業法違反の罪の教唆罪として簡単に触れたのみだった。

この点について説明すると,アプリの性能や機能にもよるが,もしそのアプリの実行による「Aの位置情報のXに対する転送」という処理がAの「意図に反する動作」であった場合,スマートフォンは「電子計算機」の一種であり,アプリは「電磁的記録」の一種であることから,そのアプリは,「意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」であることになるので,Yについて刑法168条の2第1項1号の不正指令電磁的記録作成罪または同提供罪が成立し得ることになると考えられる。要するに,Yは,このようなアプリを作成・提供してはならない。

そして,もしYについて不正指令電磁的記録提供罪が成立するとすれば,そのアプリを使用したXについても,同法168条の2第2項の不正指令電磁的記録供用罪が成立することがあり得ると思われる。

これらの罪が成立すると解する場合,Aの「同意」は,原則として犯罪行為になる行為について「本人の同意」という違法性阻却事由が存在するために犯罪が成立しない場合に該当すると理解することになろう。ただし,刑法168条の2の罪について,社会的法益を侵害する罪であることを重視する立場では,「本人の同意」があっても,違法性を阻却しない(被害者の同意の有無は社会に対する危険性の有無とは無関係)という解釈論も成立可能なので,その場合には,本人の同意があっても常に違法性が阻却されないと解することになろう。

なお,これらの罪が成立するという法解釈論を採用した場合,より広く,cookieや特殊なアプリ等によって密かになされる利用者行動履歴の取得や自動プロファイリングについても,これらの罪が成立し得る場合があると考えることになると思われる。犯罪が成立する場合としない場合との境界が微妙な類型に属する事案と思われるので,更に検討を要する。

[追記:2011年9月1日14:45]

このブログ記事と上記の2つの追記を書き終えてからネットで検索してみたら,高木さんのTwitter書き込みがたくさんあることを知った。

法解釈論としておかしなところが多々あるけれども,高木さんは法律家ではないので仕方がない。

結論として犯罪行為になる可能性が高いという点では私見と一致しているようだ。

不正指令電磁的記録作成等の罪は親告罪ではないので,捜査機関が独自にいつでも捜査を開始することができる。

あとは捜査機関に任せることにする。

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